第5話 喜びの人々



「目が覚めたんですね?」

 ベッドに横たわるルアーナが目を覚ます。

「んう、あなたは?」

「失礼しました。私は隣国リントの国より参りました。メルモ·ミナミと申します。」

 メルモは服の端を整え頭を下げる。

「そう、それで?反乱はどうなったのかしら?」

「…そこまで御存知なのですね。この国に蔓延っていた悪徳貴族は全て討伐しました。」

「そう…………一度、一人にしてくれるかしら?」

 ルアーナは顎に手を当てながらチラリとメルモの方を見る。

「失礼しました。ゆっくりお休み下さい。」

 メルモは部屋を出ていく。





「落ち着くのよ、ルアーナ。落ち着くのよ。」

 ルアーナは頭を抱えてぶつぶつと呟きだした。

「さっきの子、悪徳貴族を殺したといったわよね?うちの貴族に悪徳じゃない貴族は………いないわね。とっくに国から消えてたわ。」

 ルアーナは天を仰ぐ。

「この国これからどうなるのぉぉぉ!!!!」

 因みに、ルアーナは自身の周りに防音魔法をちょくちょく使っている事実を伝えておく。









コンコンコン

「ルアーナ様。」

「いいわよ。」

「失礼します。」

 メイドが軽食を持ってやって来た。

「ルアーナ様。具合の程は?」

「問題ないわ。」

 メイドは食事をルアーナのそばに置き、退室しようとする。

「待って。今、外はどんな感じかしら?」

 ルアーナはここ数日、療養のため外に出ておらず、ファーナも訪れていないため、情報が全く届いていなかった。

「そうですね。反乱を先導したお三方の号令の元、街の復興をしています。街の皆さんもルアーナ様に早く元気になって欲しいと精を出しています。」

「そ…そう。」

 この時、ルアーナは気付かなかったが、ファーナが流した情報により今までの政治は貴族達の独断で、王族は傀儡にされていたという情報が前提となっている。

「それに、街ではルアーナ様を女王様にしよう、という声も上がっています。」

「えぇ?それは…民達全員の意見かしら?」

「はい!反対意見を言う方は他の民達に袋叩きにあっていました。」

 ルアーナの笑顔が少し引き攣る。

 

「その三人に会わせてくれるかしら?」

「えっ?御体はよろしいのですか?」

「えぇ、平気よ。」

「それでは、確認して参ります。」


 暫くしてメイドが戻ってきた。


「確認して参りました。明後日なら時間が取れるとのことです。」

「そう、ありがとう。」

 ルアーナは紅茶を飲み干しカップを戻す。

「ところで、ルアーナ様。」

「何かしら?」

「お腹が空いてらしたのですか?軽食が全てなくなっていて…」

 メイドは最後まで言うのをやめてしまった。

 何故ならルアーナの顔が段々と赤くなり、気まずそうに顔を背けたからだった。

「夕食から通常の量になさいますか?」

「え、えぇ。…そうするわ。」




その日の夜、夕食を三人前食べたルアーナであった。






 

 そして、反乱の先導者である三人と会う日となった。


「初めまして、私はルアーナです。助けていただきありがとうございました。」

 ルアーナは"きちんとした"正装で三人に頭を下げる。

「や、止めてください!頭を上げてください!」

 赤髪の青年が焦ったように早口で喋る。

 ルアーナが頭を上げると、赤髪の青年がまずは口を開く。

「私はガル·タイラです。リントの国で貴族でした。」

「同じくフーシャ·エンドーです。」

「私も同じく、メルモ·ミナミです。」

 三人もそれぞれ頭を下げる。

「ふむ?でした…それはつまり元は…ということですね?」

 ルアーナが疑問をなげかける。

「それは…私達の目的となったものです。」

「聞かせてくれるかしら?」

 三人はお互いに目を合わせ頷きあう。

 代表してガルが口を開く。

「分かりました。…私達三人は元々リントの貴族でした。ですが、憎き暗殺者アンブラーにより両親は殺され、家は取り潰しとなりました。私達はアンブラーに復讐するためにこの国に来たのです。」

 ガルが自分の手を握ったり開いたりを繰り返す。

「そう…そんな辛いことが。」

 ルアーナが手で口を覆う。

「いいえ、ルアーナ様程ではありません。ルアーナ様は婚約者を目の前で殺されたのですから。」

「それは…」

 ルアーナが悲しそうな声で呟く。

「これは失礼を。お辛い記憶を思い出させてしまって。」

 フーシャが急いで謝り、ガルに何をしてるんだ、と小声で注意していた。

「ルアーナ様、すみません。お休みになりますか?」

 ルアーナの顔色を窺いながらメルモが尋ねる。

「問題ないわ。気にしないで。」

 ルアーナが笑顔で話し、三人は胸を撫で下ろす。

「それよりも…」

 ルアーナの雰囲気が変わり、緊張する三人。

「今、三人は根無草なのよね?どうかしら我が国で貴族として家を復興させるというのは。」

「ほ、本当に、よろしいのですか!?」

 ガルが机を叩き付け、バァン!と音が鳴る。

 他の二人も頭を巡らせおり、ガルを注意することを忘れている程だった。

「今すぐに、とは言いません。時間をおいてまた後日…」

「いいえ、今ここで、そのお話受けさせていただきます。」

 ガルが机の横に移動し、片膝を地面につけて頭を下げる。

 一拍遅れてフーシャ、メルモもガルと同じく片膝をついた。

「訳を聞いても?」

 ルアーナが少し胡乱な目で見据える。

 それに、ガルが話す。

「俺達はアンブラーの復讐しか考えておらず、何も考えずに国を出てきました。この国の惨状を聞いた時は居ても立っても居られないと思い、直感で動いただけです。

 そして、今俺達の目の前に家の復興とアンブラーへと続くかもしれない情報源が同時に手に入るかもしれない、と考えれば今すぐにでも受けたいと思いました。」

 途中フーシャとメルモがハラハラした表情で聞いていたが最後にはうんうん、と頷いていた。

 ガルはそれに…と続ける。

「俺の勘は当たるみたいですから。」

 その言葉にふふ、とルアーナが笑う。

「そう。あなたは考え無しの行動と言いましたが、私や国民からしたら違います。あなた達の勇気ある行動で私も国民も救われたのです。

 共にこの国を発展させてくれますか?」

 ルアーナは三人の前に立ち、手を差し伸べる。

「もちろんです。」

 ガルが手を取る。

「死力を尽くします。」

 フーシャが手を取る。

「任せて下さい。」

 メルモが手を取る。

 三人が手を取り、同時に立ち上がる。

「さあ、今の街の状況を教えてください。私が陣頭指揮を取ります。三人とも抜かりのないように。」

「「「はい!!」」」

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