第3話 憂鬱は続く



「失敗だわ。」

 自身の部屋で書類を纏めていたルアーナは、仕事が一段落すると、バサッ 体を大の字にして寝転がる。

「あの変態共のキショイ顔を見なくて済んでるのは良いけど………もっとテキパキと出来る女な感じを想像していたのに……。これじゃ、国の統治なんて出来っこないじゃない。」

 ルアーナは、ん~~、と謎の声を出しながら自身の長い髪を指で弄っていた。

「いっそ、私も死んだことにして出ていけば良かったかしら。」





ーその夜ー


 ガバッ!

「んむー!!んふーー!!」

 その日。寝ている時、突然体と口を抑え込まれたルアーナは驚いた表情で声を上げる。

 しかし、目で確認し、その不埒者が一人ではないと悟ったルアーナは体を動かすのを止めて、その奥にいる人物を睨む。


「これはこれは、ご機嫌麗しゅうルアーナさま。」

 その姿を確認し自分の顔についた手を、振り払って静かに口を開く。

「何の真似ですか?グリャーネル子爵。」

 尋ねられた男はニタリと笑い、舌舐りをする。

 男の整った顔が僅かに歪む。

「いえ、何。夜のご経験がたった一度では、国を背負う王妃として少々物足りないのでは?と、思いましてね。若輩ながらルアーナ様には極上を味わっていただきたく存じます。」

 それを聞いたルアーナは少し声を荒げながらも、冷静に話す。

「ふざけないで。私は生涯あの方に、この体を捧げたのよ。私の初めてだって…。」

 ルアーナは自分の言葉に恥じらいを覚え、下を向きながら黙ってしまった。

「ハハハ!初々しく何て、可愛らしいお方だ。

 あぁ…ますます欲しくなる。」

 男はルアーナに近付き、ルアーナの顔に触れる。

 息も荒くなり、男のソレも忙しなくなる。

「あぁ…ああぁ!……クックック。見れば見る程美しい…。貴方から…目が離せなくなる…。

 それに、勿体無いではないですか。貴女のような方が、あの程度の物しか経験しないなんて。」

 男は周りの部下達に指示をして、ベッドにルアーナを抑え込み、手首と足首に手錠の様な物をつける。

「後はいい。出ていけ。」

 男は部下達に部屋から出るよう指示を出す。

「そ、そんな!ここでお預けなんて!」

 部下の一人が男に抗議する。

 しかし、男は顔に怒りを滲ませ、その部下を殴る。

「いい気になるなよ。」

 部下達は怯えたように部屋の窓から姿を消した。


「さぁ、それでは。」

「なぁ!?やめなさい!私を誰だと!」

 男がルアーナの上に跨がり、服を脱ぐ。

 ルアーナは抵抗するように腕を振るが、何処吹く風とばかりにその腕を掴みゆっくりと体をルアーナに近付ける男。

「フフフ。一緒に溶け合いましょう。」

 男が顔を近付ける。

 ルアーナは天井に目をやり、何かに気付く。

「……いいえ、溶けるのは貴方一人よ。」

 その瞬間、ルアーナと男の間に光が点滅し、男は後方に吹き飛ばされた。

「がっ!?一体、何がぁ!?」

 男はルアーナの方を見る。


「ありがとう。」

 そこにはルアーナを起き上がらせた黒い影。

「貴様!アンブラー!」

 男は部屋の入口に置いたままだった剣を取ろうと体を向ける。が、

「バイバイ。」

 それよりも数段早くアンブラーが男の首を落とす。

 





「ふぅー、助かったわファーナ。」

 事が終わり、妹に礼を告げる姉。

「お姉ちゃん、大丈夫?酷い事されてない?」

 ファーナは体を揺らしながら、ルアーナの体をくまなく見詰める。

「フフ、大丈夫よ。来てくれてありがとう。今回はどうしようかと思ったわ。…それと、どうして分かったの?」

「一応、情報は集めてるから。それで知ったの。」

「まぁ。」

 妹の行動に感心するルアーナ。

「でもお姉ちゃん、あんなのすぐにやれたよね?どうして?」

 心底、不思議そうに首を傾げるファーナ。

「いや、あそこでやっちゃったら、色々とめんどくさいじゃない。もしもの時はそりゃ、やるけどぉ。

 ま、ファーナが来てくれて助かったわ。けど…」

 ファーナの頭を撫でながら、暗い表情をするルアーナ。

「私、間違えた?」

「違うわ!ファーナ、あなたは私の一番よ。私にはあなたが必要。」

 ファーナが泣きそうになるのを見て、慌てて訂正をして、強く抱き締めるルアーナ。

「じゃあ?」

「えーっとね。そんなに負担がある訳じゃないけど…話を合わせるには、この男が私をアンブラーの魔の手から体を張って助けたってことになるじゃない?」

「うん。」

「また、城に響く位、大声を上げないといけないとなると…ね。」

「あー、がんばってね、お姉ちゃん。」

 何かを察したのかファーナはルアーナの頭を撫でる。

「ありがとう。」



「それじゃあね。」

「えぇ、また。」

 そうして、ファーナは森に戻り、ルアーナは大声を出す。




「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 その声をファーナは森にある洞窟で聞いた。

「ふふん。私が一番♪︎お姉ちゃんのいっちばん♪︎」

 次の日の姉の喉の苦しみなど露知らず、自作の歌を歌いながら、眠りについた。

















「グリャーネルも運が悪かったな。」

 マーチェランが切り出す。

「まぁ、腐っても王妃。またアンブラーが狙いに来るかもしれませんな。」

 マーチェランと同じ公爵位をもつ、ロウサイ公爵が周りの貴族に聞こえるように話す。

 周りの公爵未満の貴族達は皆、黙ってしまった。

「危険を犯してまで、あの女を手懐ける必要はあるまい。アンブラーに殺させるのもありか。」

 この言葉に待ったをかけるものがいた。

「失礼、現在ルアーナは王妃の仕事をしているのですよね?」

「そうだな、グリーガよ。」

「ならば、子を宿さなかった時、我々を騙した罪で、牢屋に入れることはどうでしょう?国の極秘情報を漏らそうとした、でも構いませんが。それなら、国の要人を狙うアンブラーもただの女には手を出さず、我々はゆっくりと楽しめるのでは?」

 その言葉におぉ、と声を上げる貴族達。

「フム。そうだな、…良かろう。数名、騎士をつけて護衛をさせよう。異存はないか?」

 異を唱えるものはおらず、グリーガに拍手を送る貴族達。

 

 その部屋の天井でファーナは軽蔑の表情で思う。

 最低だ…と。







そうして、時は経ち…約束の半年となった。

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