第2話 平和の王国





「キャアアアァァァァァ!!!!」

 夜遅く、三百年の歴史を誇る荘厳な城に女性の悲鳴が木霊する。



 部屋の前に立つ二人の兵士が異変を感じる。

「今のは!?」

「分からん!とにかく部屋の中の確認を!」

 兵士はそばにあった灯りを持つ。

「えぇ!?い、いいので!?」

「バッカ!何かあったら俺達の責任になるんだぞ!」

 片方の、髭の生えた老兵士は新人兵士を叱り、部屋のドアを開け放つ。

「陛下!!だいじょ…」

 老兵士は声を上げかけて、口が、固まったように止まる。

「そ…んな…」

 新人兵士はその場で膝から崩れ落ちてしまう。

 目の前には、首と胴が別々になった男の死体と口を手で覆いながら泣いている女性、王妃ルアーナがいた。

「る、ルアーナ様!一体何が…。」

「そ、それが…あぁ!……あぅ……」

 王妃ルアーナが気絶してしまった。












「う、んんぅ。」

「王妃様!御無事で何よりです!」

 ルアーナが起きると、メイドの一人が泣きながら抱き締める。

 周りに控えていたメイド達も目に涙を浮かべて安堵の息を吐く。

「ここ…は。」

「ここはルアーナ様の御部屋です。国王陛下の御部屋は…その…」

 メイドは言いづらそうに言葉を濁す。

「えぇ…大丈夫よ。主要な貴族達を呼んで頂戴。時間はかかるかしら?」

「いえ、皆様急報を聞きつけ、駆け付けて下さっています。」












「この度は集まっていただき感謝します。」

 ルアーナは膝より上にあるドレスの裾を下着が見えるギリギリの所まで持ち上げ頭を下げる。

 周りの主要な貴族達はニヤニヤと王妃の事を仰ぐべき高貴な方ではなく、別の目で見ていた。

「ルアーナ様、国王陛下についてですが…」

 一人の貴族がルアーナの下半身を舐める様に見ながら問う。

 何かに気付いたルアーナは顔を赤らめながらお腹の辺りを触る。

「もちろん。たくさん頂きましたわ。」

 ルアーナはお腹を撫でるように手を動かし、恍惚の表情をした。

 周りの貴族達はゴクリ、と喉を鳴らし、ルアーナの顔と手の動きを交互に見ていた。

「あっ、失礼しました。」

 ルアーナはさらに顔を赤くしながら、席に座った。

「ウオッホン!それでは、半年程時期を見て、ルアーナ様の腹が膨らまなければ…分かっていますね?」

 恰幅の良い初老の男性が睨むようにルアーナを見る。

「はい…構いませんわ。」

 ルアーナは覚悟を決めた顔でゆっくりと頷く。

「さあ、ルアーナ様。御部屋に戻られても大丈夫ですよ。心労も溜まっておいででしょう。」

 目付きの鋭い男性が促す。

「お気遣いに感謝いたします。ですが、公務や出来る限りのことはさせていただきます。」

「それは殊勝な心掛けですな。」

 顔の整ったイケメンが目を細めながら頷く。

 しかし、その目は立ち上がり、振り返りながら頭を下げたルアーナの少し上に持ち上がったドレスの裾から覗く太ももを見ていた。

 そして、ルアーナはメイドに連れられて部屋に戻った。






 最初に口を開いたのは恰幅の良い初老の男性だった。

「ふふふふ。あの女もあそこまで立派になるとはな。なぁ?グリーガ伯爵?」

 グリーガ伯爵と呼ばれた目付きの鋭い男性が頷く様に喋る。

「えぇ、五年前は物言わぬ兵器にする予定でしたが、温室で育てておいて良かったかもしれませんね。」

「しかしマーチェラン公爵、もしもあの国王の子種を宿していなかったらあの女はどうするので?」

 恰幅の良い…マーチェラン伯爵がくくく、と笑うように話す。

「今の所、自我を失くして兵器にするか、我々で可愛がってあげるかのどちらかでしょう。万が一、子種を宿せば王の子として育てるだけですからね。」

「ほぅ、ならば我がグリャーネル子爵家の子が国王になるかもしれないと…面白いですね。」

 顔の整ったイケメンが顔を歪ませて、愉快そうに話す。

「ハハハハハ!若造には負けんぞ!」

 その後も会話は続く。最初から誰も死んだ男などいなかったも同然に。








「では、ルアーナ様。ゆっくりお休み下さい。」

 ドレスを脱ぎ、ベッドまでルアーナを運んだメイドは心配した表情だった。

「そうね。でもじっとするのは苦手なのよ。少しずつでいいから書類を持ってきてちょうだい。」

「それは………承知しました。何かあれば御呼び下さい。それと御無理はなさらぬように。」

 メイドは諦めた表情で部屋を出ていった。

 部屋に一人になるとルアーナはドサッ、とベッドに体を預けた。

「ハァーあー。使用人は皆良い子達なんだけどなぁ。」

 ルアーナは自分で自分を抱き締める様に体を丸める。

「何よ!あの顔!あれの父親の方が弁えてたわ!」

 ルアーナはさらに体を強く抱き締めて、ブルッと震えた。

「気持ち悪いぃー。メイド達が間違えて前クソ王妃のタンスからドレスを持ってきた時は正気を疑ったわね。」

 ルアーナは枕を抱き締めながら顔を埋める。

「何よ!「前の王妃様は皆様の前ではこの衣装をよく着ていました!」って!国が国なら常識も終わってるわ!」

 ルアーナは鬱憤を全て吐き出したのか深く息を吐いた。

「ま、私の完·璧!な演技で部屋から出なくて済むようになったから安心だわ。あのクソ奴隷商に初めて感謝してやるか。

 …さてと、暇潰しのお仕事しますか!」

 ルアーナはメイドを呼ぶためのベルを鳴らした。

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