第7話(後編)
新人戦当日。
開場してすぐ、多くの人がやってきました。もっとも、この新人戦は島外からの観客は招待客のみです。一般の方はいないので、圧倒的に空席が多いです。今日の観客は5千人程度でしょうか。
「すげぇ! めっちゃお客さんいる!」
会場の様子をモニターで見た
舞台袖に当たる部分に、芸能科1年男子が集まっています。黒一色の舞台袖にあって、生徒たちの色とりどりの衣装は輝いていました。さらに多くのスタッフさんもいました。衣装直しやメイク直し、照明に音響にとせわしなく動き回ります。
そんな慌ただしい空気もなんのその、いつも通りのテンションで
「お~、俺達まだデビューもしてない新人なのになぁ」
「新人だからこそ観たいという人もいる。オーディション番組なんかと同じだな」
モニターに夢中の2人に
「
「めっちゃおるぞ、カラス」
「もう見た……。あと1時間もしないうちに、肉眼で見ることになるんだ。今すべきなのは本番前の確認だ」
と言いながらも、
(今日、決まる)
新人戦で勝つことは、最短でのデビューにつながります。夏季合宿への参加や文化祭でのステージなど、特権を得ることができるからです。そうしてデビューし、1年間で最も輝いたアイドルに選ばれれば……。
学園に入学した目的を果たせることでしょう。
(ボクならできる)
先ほどの震えを振り払うように、
「あの……」
か細い声がかけられました。
この衣装は、3人だけでなく、すべての生徒にとって見覚えのあるものです。なにせ先月の入学式で、0日デビューを飾った1年生が着ていた衣装です。
「何か用か?」
新人戦で勝つ、という通常のデビュー最短ルートをぶち破った天才の登場に、
「カラス先生こっわ」
「ごめんな
2人ともちょっと引いてました。
一度咳ばらいをして気を取り直します。
「それで……どうした?」
その様子に、
「いえ、なんとなく人と話したくって……。相変わらず仲がいいですよね、
3人がお互いの顔を見合わせます。船で人工島に来たときに出会い、寮でも教室でも多くの時間を過ごしました。毎日レッスンをして、新人戦に備えてきました。
「仲間だから」
僕たちとは違う、と思いながらも。
(ハジメくんやカイトくんに会いたいな)
自分のユニットのことを
それに加えて、
「おれたちで今日のライブ盛り上げようぜ!」
目の前の、どこまでも明るい級友のためにも、最高のパフォーマンスを見せなければならない。あらためて決意しました。
「ありがとうございます。……最高のライブを、共に」
自分たちが新人王になる、と。
それは
新人戦は何の問題もなく進行しています。
すでに何組かがパフォーマンスを終えました。汗だくになりながら「緊張したー」とか「めっちゃミスった……」とか喋っています。誰もが満足げな顔をしています。それだけ努力をして今日を迎えたのでしょう。
すでに折り返しに入り、暫定順位も出ています。今のところ順当な結果だと言えるでしょう。前半戦であるということ、注目株がまだということもあり、全体的に審査員票は控えめです。ネットによるファン投票は未公開ですが、審査員票のほうが比重が高いので、大きく覆ることはなさそうです。
そして後半戦。
間違いなく最も注目されている1年生の出番がきました。
「もうすぐタカじゃん」
「流石だな」
手元のスマートフォンを見ながら
「すでにSNSでもトレンドに入ってる」
「まじか、さすタカじゃん」
ネット上のコメントのほとんどは
「タカ本人は見んほうがええな」
「まぁエゴサするタイプにも見えないが」
ステージに立つのは
もっとも陳腐な表現をすれば、それは天使の歌声でした。すべての人が夢中になり、微笑みを浮かべずにはいられない。軽やかなステップも相まって目を離すことができません。
とっても素敵なステージです。
「……?」
しかし
何かが変だと感じました。
「なぁ、2人ともーー」
なんとかモニターから目を離し、横に並ぶ2人に目をやれば。
「……」
「……」
どちらも押し黙って、食い入るようにモニターを見ていました。しかし浮かべる表情は異なりました。
「2人ともどうしたの?」
観客にとってそれは素晴らしいサプライズです。あの
そして、ほぼすべての1年生にとって絶望的なものでした。誰よりも優れたライバルが、本気で叩き潰しにきたのです。ステージは課題発表の場ではなく、エンターテイメント、アート、あるいはアイドルそのものを見せつける場だと思い知らされました。
「スズメ、分からんのか?」
「よく考えろ、今までと明らかに違うだろう」
2人はモニターに目を向けたまま、
(違う?)
確かに実力の差は感じずにはいられません。
(いつもより静かかも? ……あ)
そう、静かでした。路上ライブでも、ドームのライブでも日常生活ではまずない爆音が響いていました。それゆえの高揚感を
しかし今、スピーカーから聞こえるのは
すなわち。
「アカペラ」
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