第3話(前編)
ライブのあと、
「怒られる、よね」
「しゃーないな。実際、許可もらってないし」
そう言う
「やってしまった……」
ボクとしたことが、と
「カラス、想像できたことだろ」
「できるか! よりにもよって生徒会なんて……。せいぜい職員室だろうと」
お昼休みです。全員もともと席が近いので、机をくっつけてご飯を食べています。
「なぁ
大人に怒られるほうが気が重いのでは、と思います。その点、あのさわやかな先輩なら、それほど厳しく怒ることはないでしょう。いいライブだった、とも言ってくれましたし。
しかし、
「いいか、生徒会長は
「うるわし家ってすごいの?」
「いわゆる名家のひとつだ。鳥の先祖返りたちを牽引する家だな」
「つまり?」
「今後の活動、学園からの待遇、……果ては卒業後まで影響が出るかもしれない」
ご飯に集中していた
「そんなにすごいんか」
「きみたちは無頓着すぎる。……ま、ボクも学園を調べて初めて知ったが、鳥の先祖返りには七つの名家がある。それぞれが複数の他家を束ねて、大きな派閥を作っている。芸能界はもちろん、政界や財界にも家の人間がいるわけだ」
と、ここまで聞いて2人は思います。
なんだか遠い話だなぁ、と。
もう祈るしかない、と
「ボクたちを退学させるぐらいの権力があるんだ……」
別の声が割って入ります。
「あの……、ハジメくんは怒ったりしないと思います」
「そーいや、タカはおなじユニットだもんな」
「ハジメくんはすごくいい人です! 優しくて、ダンスも教えてくれるし、淹れてくれるコーヒーもすごく美味しいんですよ!」
珍しくハイに喋るので、
「す、すみません。……急に割って入ってしまって」
「いやいや、こっちこそごめん。バカにしたわけじゃなくて、仲いいんだなって」
「えっと、はい。仲良くしてもらってます……」
「だとしても、だ」
3人とも
「談話室や寮の食堂でもなく、生徒会室に呼ばれたんだ。覚悟はしておくべきだろう。それに10分休みや昼休みじゃない、ということは――」
「ということは?」
「……長い話になるに違いない」
で、あれば。
「今のうちに、よう食っといたほうがいいわけか」
「黙れ
「まぁまぁ……」
今度は
放課後、生徒会室と書かれたプレートを見つけました。
廊下の窓は開いていて、温かい風が吹いています。生徒たちは教室を出て、レッスンに向かっています。生徒会室の方に向かう人はほとんどいません。
「いいか、きみたち。絶対に余計なことを言うなよ」
「ほいほい、分かってるって」
「大丈夫! たぶん……」
意を決してノックしようとしたそのとき。
がらがら、とドアが開きます。
「お、来たな」
「――というのが、路上ライブの申請手続きだな」
2.5人掛けぐらいのソファに3人で腰かけ、レクチャーを受けました。学内のイベントは小規模なものなら生徒会の許可のみでできるそうです。内容をできるだけ細かく記載し、生徒会や風紀委員、教員などの監督者がいれば、なお通りやすくなります。
「……」
「今回みたいに急ぎのときは、寮で言ってくれても構わないよ」
「あの、おれたち怒られるんじゃないんですか?」
耐え切れず
「怒らない」
と
「そもそもイベントができるのか、できるとして、申請はどうすればいいのか――、事前に疑問を解消できなかったのは生徒会側の落ち度でもある。ということは……むしろ、俺に怒ってもいいぐらいだな」
「めっそうもないです!」
「そうだ、コーヒーでも飲むか? ここにはインスタントしかないんだが」
席を立ち、棚からカップを取り出します。
コーヒーの香りがしてその思考は中断されました。
「どうぞ」
「ありがとうございます!」
「ワシ先輩、質問いいですか?」
「お、もちろんいいぞ」
「今日の話って、申請用紙の書き方だけなんですか?」
「
ぎょっとした一颯が目を向けます。あれほど余計なことを言うなと……。しかし当の
まっすぐな質問に、
「いや、実は君たちにユニットを紹介したいんだ」
「紹介、というと?」
「君たち3人には、先輩ユニットのところにいってレッスンを受けて欲しいんだ」
机の上にタブレットを置きます。表示されているのは芸能科男子のウェブページでした。その中の、在学生によるデビュー済みユニット一覧のページです。
「なんでですか?」
今度は
「ここだけの話なんだが……、新人戦を辞退したいという声が出ている」
新人戦を辞退したい?
そんな生徒もいるのか、と驚く一方で、自分たちのことを思い出します。例えばメンバー間でケンカしたとか? あるいはソロの生徒が怪我をしてしまったとか?
「なんでですか?」
また
「あー……、それなんだが」
ばんっ、と音がして生徒会室のドアが開きました。そして入ってくるのは
「ハジメ! 遅ぇ!」
メンバーの元気な登場に、
「あのな、カイト。もう少しこらえ性を――」
「だらだら話してもしょうがないだろ」
「一年坊主にしちゃマシそうだな」
そうつぶやきながら
無音でカップを置くと、
「ようは、チコにびびったんだとよ」
ごくり、と
「チコ、というのは
「そーだよ。入学式でかましたからな。俺もハジメも出ねぇし、チャンスだと思ってバトればいいのによ。根性なしが多くてつまんねーの」
とはいうものの、
「チコの影響が大きい以上、ユニットの仲間として見過ごす気はない。生徒会長としての責任もあるしな。だから君たち――
「んで、新人戦が配信されるのは知ってるよな?」
新人戦はオンライン配信されます。一年生のパフォーマンスを観られる最初の機会でもあり、言ってしまえばお披露目会です。ここで推しを見つけようという学園のファンも少なくありません。
運営からすれば外せないイベントの一つです。今年は不作、などと思われるわけにはいきませんから。
「期待の意味も込めて、デビュー組とのレッスン、という機会を送りたい。そんなわけで、君たち1人1人に合ったユニットを選んでみた」
タブレットのユニット紹介ページを開きます。
『
「ここは寮長の……」
「そーだ。鳴美のとこにはカー太郎、お前が行け」
「カー……太郎……?」
返事を待たずに、
『
「ここはチュン太郎」
それを聞いて、
「そんで鳩ポッポは俺らな」
「俺らっていうのは――」
「だから俺らだ。『
「話は通してあるから、とりあえず顔合わせに行ってくるといい」
三者三様の表情を眺めながら、
そして『なぜ
(わざわざ裏の事情を話す必要はない)
ひとまず今日、
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