慰謝料

先方から提示された離婚の条件は、おおむね同意できる内容でした。マンションは夫がローンで買ったもので、私はお金を払っていないので、出て行けと命令されたら出て行くまで。家財については、実家へ帰る予定なので、せっかく家具や家電をもらっても邪魔になってしまう。早い話がいらない。その代わり、日用品は提案通りごっそり持ち出すことにしました。具体的にはトイレットペーパーの予備とか。せこい。


同意できなかった点は2つです。1つ目は離婚届を提出する時期。当時は11月で先方の要求は「今すぐ」でしたが、私はお歳暮販売のパートをしていたため急に引越するのは難しく、さらに途中で名字が変わってしまうのも事務手続の上で不都合なので、お歳暮シーズンが終わる12月末まで待って欲しいと申し出ました。この件は、その場ですぐに同意を得られました。


2つ目は慰謝料。金額については同意できましたが、分割払いは途中で踏み倒される可能性が高いので、一括払いにして欲しいと頼むことに。これについては、義父は散々渋りました。いわく「本人は絶対に払うと言っている」「今は入院費用もあり一括は難しい」「どうか息子を信じてくれないか」等々。対する私の返事はこうです。「直接の説明もなく、電話にも応じず、郵送で離婚届を送ってきた人間を信じるのは不可能です。一括前払いじゃない限り絶対に離婚しません」。


私は無用な争いが苦手です。それに、昭和人間なので、目上の人に反抗するなんてとんでもない。ましてや相手が義父ともなれば異論を唱えるなんてもってのほか。なのですが、あくまで無用な争いを避けたいだけで、必要な争いならば相手が誰であれ躊躇はしません。これはそう、絶対に勝たねばならない撤退不可能なラスボス戦。にも関わらず、ラスボスの父と戦っている私。おかしくね?


慰謝料の件は結局持ち帰りとなり、数回に及ぶ伝言ゲームを経た結果、額面を2割減らす代わりに一括前払いするという条件で話がまとまりました。最初より金額が減ったのは残念ですが、分割払いが途中で回収不能になるよりは遥かにいいので、双方にとって悪くない折衷案だと思います。話し合った内容を離婚協議書にまとめ、同じ内容を2部作成して署名押印完了。これでいよいよ離婚できます。


慰謝料はその後すぐ振り込まれ、ホッとすると同時に「そんなに急いで私と別れたいのか!」という怒りがわきました。

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