第4話 あの子が可愛いすぎる

「はぁ……」

ヴィオレッタは手にしているハンカチを見てため息をついた。

「お嬢様、ため息などされてどうされたのですか?」

メイドに心配そうに聞かれた。

「……エルジュが可愛すぎて」

「……」

メイドは「あ、何だ、いつものか」と言った表情になった。

「可愛いわぁ。見て、このハンカチ。私のことを想って刺繍してくれたそうよ!私の大好きなアマリリスが刺繍されているの。それに、私の好きな青紫色も使われているわ。可愛いわ。撫でくりまわしたいぐらい可愛い」

気心の知れたメイドの前なので、足をバタバタさせるヴィオレッタ。


ヴィオレッタは小動物が大好きであった。

犬、猫、鳥、兎……子供も大好き。弟のカーディナルのことも大好きだ。

両家の顔合わせの時に、弟の婚約者であるエルジュを初めてみた。

エルジュを見たヴィオレッタは「うわー弟が羨ましい。自分が男だったら絶対に彼女と結婚したい」と思っていた。


ヴィオレッタは、今日のハンカチを貰った時のことを思い出していた。

キラキラした瞳で「ヴィオレッタさんっ」と子犬のように駆け寄ってきたエルジュ。

はにかんだ笑顔を見せて、ヴィオレッタのことを想って刺繍したと言って素敵なハンカチを渡してくれた。

ヴィオレッタもエルジュのためにマーガレットをモチーフにした髪飾りを渡せば、エルジュは「え、えぇ!これ、私に!?」と小動物のようにわたわたしていた。

ぎゅうっと抱きしめて、ふわふわの亜麻色の髪を撫でまくりたい気持ちを何とか抑え、ヴィオレッタは「さっそく付けてみて」と、エルジュに髪飾りをつけてあげた。

ヴィオレッタの見立て通り、その髪飾りはエルジュによく似合っていた。

ヴィオレッタがエルジュの耳元で「よく似合ってる。カーディナルがその姿を見たら、貴方のことを褒めまくるわ」と言えば、エルジュは「ど、どうでしょう……?」とちょっと自信なさげに呟いた。


ヴィオレッタは、絶対にカーディナルはエルジュの姿を見て、可愛いと悶絶するに違いないと信じて疑わない。


断言できる理由は、カーディナルもヴィオレッタと同じく、小動物、子供が大好きだからだ。

そして、エルジュと結婚できることを、誰よりも喜んでいた人物だからである。

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