第2話 楽しいお茶会
庭に妖精女王が迷い込んできた。
エルジュはそう思った。
いつまでも紫色のフリージアが咲く庭に立つヴィオレッタを眺めていたかったが、エルジュはガゼボへとヴィオレッタを案内した。
「淡いスミレ色のティードレス、とても素敵です……!妖精女王みたいです」
「ふふ、ありがとう。エルジュのペールピンクのティードレスも素敵だわ。花の精霊みたいよ」
「花の精霊だなんて……!照れちゃいます」
ヴィオレッタに褒められたエルジュは照れ笑いをした。
ケーキスタンドにベイクウェルタルトを見つけたヴィオレッタは目を輝かせた。
「私、ベイクウェルタルト大好きなの」
「旦那様から聞きました!ヴィオレッタさんはベイクウェルタルトが好きだって。美味しいですよね、ベイクウェルタルト!たっぷりのアーモンドクリームに、さらにスライスアーモンドを上に乗せる……。アーモンド好きにはたまらないです」
「いいわよね。そこに甘酸っぱいラズベリージャムがいい仕事をしてくれるのよね」
2人はスイーツと紅茶をお供にお喋りを楽しむ。
「ヴィオレッタさんも、いよいよ来年結婚するんですよね。結婚されたら今みたいに気軽にはお茶会できなくなっちゃいますかね……」
来年はヴィオレッタが結婚予定である。
ヴィオレッタの結婚式にエルジュはもちろん参列する。ウエディングドレス姿のヴィオレッタをこの目にぜひとも焼き付けたい。
しかし、結婚したら、今みたいに気軽に会えないかもしれないと思うと少し寂しくなった。
ヴィオレッタはエルジュの不安を払うように、笑顔を見せた。
「可愛い義妹とのお茶会、月に一回はやりたいわね。というか、最低でも月に一度、可愛いエルジュに会わないと私、死んじゃうわ」
ヴィオレッタがそう言えば、エルジュは目尻を下げて嬉しそうな顔をした。
「ふふ……可愛いだなんて。嬉しいです」
「カーディナルは言わないの?貴方のこと、可愛いって」
突然、ヴィオレッタにそう言われてエルジュは、きょとんとした。
「いえ、旦那様から可愛いって言われたりはしてないです」
「あら……そうなのね」
ヴィオレッタはそう言うと紅茶を飲み干した。
「そうだわ、エルジュは好きな花って何?」
話が変わり、ヴィオレッタはエルジュに好きな花を聞いた。
「好きな花ですか?そうですねぇ、どんな花も好きですが……マーガレットが一番好きです」
「エルジュらしいわね。マーガレットの花言葉は、恋占い……それと、真実の愛だったわね」
「ヴィオレッタさんの好きな花は何ですか?」
エルジュは前のめり気味に聞いた。
「私?私はアマリリスが好きだわ」
「あぁ、アマリリス!花言葉は誇り、輝くばかりの美しさ……でしたね。ヴィオレッタさんにぴったりの花ですよね」
2人は花や刺繍、最近あったこと、そういった話で盛り上がり、あっという間に時間が過ぎていった。
「結婚して二ヶ月経つけれど、カーディナルから何かプレゼントとか貰ったかしら?」
帰り際にヴィオレッタにそう尋ねられ、エルジュはゆるゆると首を横に振った。
「いえ?特に何も貰ってませんが……」
エルジュがそう言えば、ヴィオレッタは一瞬、険しい表情をしたような気がした。
「まさか、うちの弟は可愛い貴方のことをほったらかしにしているのかしら」
ほんの少し低いトーンでヴィオレッタがそう言えば、エルジュは慌てて「そんなことないですよ!」と言った。
「旦那様は優しいです!私のことちゃんと気にかけてくれてます!いつも私の話を聞いてくれますし!」
エルジュがそう言えば「……そうなのね」とヴィオレッタは呟いた。
「カーディナルが何かひどいことをしてきたら、いつでも言ってね?私、きっちり叱っておくから」
ヴィオレッタのその言葉に「心強いです」とエルジュは答えて、ヴィオレッタは屋敷を後にした。
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