第50話 ビルの屋上は銀河 ――カミンとナル

 長い銀の髪を垂らした少女は、大きな水甕みずがめに銀河を映した。

 天の川銀河の星ぼし。星の船がゆくのが見える。


 ――今日、星合いはあるのだろうか。

 カミンは水甕の上にさっと手をかざした。すると、星合いを求める男女が目に映った。光る二星ふたぼしは互いが近づくにつれ、瞬きを強くする。

 薄い桃色の瞬きと薄い水色の瞬きが重なり合って、菫色の輝きとなった。

「きれい……」

 嘆息が漏れる。カミンは銀河の星合いを見るのがとても好きだった。


 そのとき、屋上に通じる階段を昇る足音が聞えた。ガチャリと音を立てて、屋上のドアが開かれた。

「カミン」

 ミッドナイトブルーの短い髪に金色の眼を持った少年が銀色の髪の少女を呼ぶ。

「ナル」

 カミンは少年の名を嬉しそうに呼ぶ。ナルも嬉しげに目を細めて、「今日も銀河を見ているの?」と言った。


「うん、そう。天の川銀河を見ているの」

「星の船、見える?」

「ほら、そこに。今日は星合いも見えたわ。あそこで菫色に光っているのがそうよ」

「きれいだね。カミンの瞳と同じ色だ」

「うん」


 カミンは、今度はナルと一緒に大きな水甕に映る銀河を見つめた。ナルの手がカミンの手を探し、優しく絡める。カミンは絡められたナルの手を、つよく握った。


 そのとき、カミンの、長くてまっすぐな銀髪が群青色の夜空に煌めいた。カミンがナルの肩に頭を乗せると、カミンの長い銀色の髪がさらさらと流れて、髪から銀色の星が生まれ、夜空にふうわりと浮かび、高く高く飛んでいった。


「星が生まれたね」

「うん」


 ナルが瞬きをすると、ナルの瞳からは金色の星が生まれた。そして、自ら光を発しながら、夜の空に嬉しそうにゆくのだった。


 夜の街にはビルが林立していて、その多様なビルのすべての屋上から、幾つも幾つも星ぼしが生まれ、宇宙に昇っていく。生まれたばかりの星は、銀や金、或いは白、或いは青など、様々な色で輝きながら、上へ上へと、希望を胸に昇ってゆく。


「みんな、運命と出逢えるかしら」

「出逢えるよ」


 ナルはカミンを抱き寄せた。すると、カミンとナルからは、今までよりも多くの星ぼしが――銀の星と金の星が、まるでビーズの瓶を倒したときのように、ばあっと一気に広がって踊るように飛び出したのだ。


「ナル――わたしの運命」

「カミン――ぼくの運命」


 幾つもの銀星ぎんぼし金星きんぼしが、カミンとナルから立ち昇り、ふたりの姿が星ぼしで隠れて見えなくなるほどだった。


「銀河が生まれるね――新しい銀河が」





  「ビルの屋上は銀河 ――カミンとナル」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!


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