第45話 恋アプリ

 僕たちは十八歳になったら一斉に「恋アプリ」を始める。


「恋アプリ」はバーチャル恋愛が出来るアプリだ。

 僕たちは「恋アプリ」をする中で恋愛を楽しみ学び、そうして何年かバーチャル恋愛をしたあと、結婚相手とマッチングされる。「恋アプリ」でいいスコアを出さないと、結婚相手がマッチングされないから、みんな結構真剣にやり込んでいるんだ。  


 結婚相手がマッチングされたとしても、子どもが支給されないかもしれない。子どもを育てるのにも、やはりアプリのスコアが関係してくる。

 僕たちの社会ではもう、自然妊娠自然出産は消滅している。提供義務のある人から提供された精子と卵子を人工授精させ人工子宮で成長させた赤ちゃんが、子育てに適していると判断された夫婦の元に支給され、育てられるのだ。そして高校までの義務教育を終えたら、みな独り立ちする。


 メッセージが届いたと「恋アプリ」が知らせた。

 僕はすぐに「恋アプリ」を開き、メッセージを読む。

〔いま何してる?〕

 僕はすぐに〔映画を見ていたよ〕と返す。すぐに返信をした方が「愛情」ポイントが高くつく。それに何か文化的なことをしていたことを示した方が、「知的好奇心」のポイントが上がる。


 僕は「恋アプリ」で、現在の恋人ミウとのやりとりをしばし楽しんだ。ミウが〔いっしょに映画観たいな〕と言うので、僕はVRゴーグルをセットして、仮想空間でミウと映画を観ることにした。ミウは水色のショートヘアのかわいい女の子だった。僕は紺色の長めの髪で、現実の僕と似た部分もあるし似ていない部分もある姿だった。仮想空間で僕はミウといっしょに映画館に行き、映画を観た。映画は派手なカーアクションが人気のものだった。


〔おもしろかったね〕ミウが言う。

〔うん、迫力があったね〕僕が答える。「共感力」の数値が上がったはずだ。

〔今日は突然だけど、いっしょに映画を観てくれてありがとう〕

〔どういたしまして。楽しかったよ〕

 僕はミウの手をぎゅっと握った。「愛情」ポイントがだいぶ稼げたはずだ。

〔じゃあ、またね〕ミウが手を振る。

〔うん、またね!〕僕も手を振る。


 そうして、VRゴーグルを外した。

 スマートウォッチですぐに「恋アプリ」の数値を確認する。うん、まずまずの数字だ。「愛情」も「知的好奇心」も「共感力」も、想像通り数値が上がっている。しかし、「主体性」がまだまだだな、と思う。今度は自分から誘わなくては。


「主体性のポイントの上げ方」を検索する。やはり自分から誘うことがポイントを上げるために必要らしい。どこに誘おう? 他のポイントも上げられるものがいい。「恋アプリ攻略の仕方」というサイトにはいろいろな候補が挙げられていた。仮想空間での遊園地や動物園、ハイキングなど。そのそれぞれに細かくどのような項目が何ポイント上がるかも書いてあった。僕はその数値のバランスを見て、次に誘うのは動物園にしようと思った。


 うまくやらなくては、と思う。僕たちは、失敗は出来ないのだ。失敗する人間の遺伝子は次世代に行かない。「不要な遺伝子」として識別される。僕たちが大切にしていることは「うまくやること」。何事もそつなく、うまくやらねばならないのだ。

「恋アプリ」から〔おやすみ〕メールが来たので、僕も仕方なく返信した。





  「恋アプリ」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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