第30話 地球照

 月の欠けている部分が淡く光っていることがあるよね。

 あれは地球の反射光で光って見えているんだ。

 地球照ちきゅうしょうっていうんだよ。

 黄色く光る三日月。

 地球の反射光で光った淡い青白色。

 地球照が三日月を補完し、丸い月の姿を描く。

 ねえ。

 まるでぼくたちみたいじゃない?

 美しく細く輝くきみ。ぼくはそんなきみをそっと支える。淡く青白く光って。

 ぼくは、きみの、月の欠けた部分になりたい。

 きみが夜、もうひとりで泣かなくていいように、そっと静かにそばにいたいんだ。

 ぼくがやりたくてやることだよ?

 いつでもきみに寄り添って、そうしてひとつの球になろう。ふたりでひとつの天体球なんだ。そういうふたりの形があってもいいんじゃない?

 ラピスラズリのような夜空に、ひかる天体球。

 青という意味と天という意味を持つ、ラピスラズリ。青い色の中に金色の黄鉄鉱石が浮かんでいる。夜空そのもののよう。

 想像してみて。

 ラピスラズリの夜空に黄鉄鉱石の星が散らばっていて、ぼくたち天体球もそこにいっしょに浮かんでいるんだ。

 さみしくないだろう?

 ぼくは、地球の反射光で淡く光る、三日月の欠けた部分。

 地球照。

 ねえ、ずっといっしょにいるよ。信じて?

 もう泣かないで。

 さみしい夜はもうないから。

 ラピスラズリの夜をずっといっしょに過ごそう。ずっと。

 欠けていてもいいんだ。だって、補いあえるんだから。

 月は望月でなくていい。

 きみはきみのままで、そのままでいいんだ。

 ぼくの腕はきみを抱きしめるためにあるんだ。

 きみの髪を撫でてきみを抱きしめる。心臓の音が重なり、ぼくたちはひとつになる。

 これから、いいこともわるいことも、ふたりで乗り越えていこう。

 だいじょうぶ、ふたりなら。

 手をとりあって、支え合って。

 ひとりじゃない。

 ひとりじゃないから。

 ねえ、知ってる? あいしている。





  「地球照」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!


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