第四話 オリジナリティーって、なに?

「怪獣には、いろんな種類がいる」


 大型端末へいくつもの画像を表示させながら、梁井くんは続ける。


蜘蛛くもとか亀とか、包丁モチーフとかヘドロとかテルテルボーズとか、宇宙から来たやつとか地底から来たやつとかとにかくたくさんいる」

「……ごめんなさい。いまちょっとアイデンティティーが揺るぎそうになりました」

「解るぞ、秕海の反応は至極真っ当だ。その上で、怪獣スーツを製作する以上、おまえに確認しておきたいことがある」


 ……聞きましょう。


「さっきのコンプレックスとも近い話だ。秕海、おまえはどんな怪獣になりたい? プラティガーか? それとも、自分だけのオリジナルとしての姿か?」


 言葉に、詰まった。

 自分が怪獣であることは間違いない。

 プラティガーの後継者であるという自負もある。

 けれど、どんな姿なら私は満足するのだろうか?


 プラティガーに近づきたい。

 これは事実だ。

 怪獣として思うさま振る舞いたい。

 これも事実。

 けれど、私が着ぐるみを身にまとおうと思った切っ掛けは。


「……自立したいの」

「なるほど、支えがなくても立っていられる姿がいいと」

「マジで言ってるんだけど?」

「だろうな」


 睨み付けてやると、彼は肩をすくめた。

 そうして。


「だったら、おまえだけの姿を作るべきだ。怪獣皇帝を踏襲しながら、異なる姿を」

「でも、それは、プラティガ-じゃ」

「こう名乗ればいい。プラティガ-二代目ってね」


 彼はさらさらと端末上にタッチペンを走らせる。

 描き出されたのは、簡略化されたプラティガーのイラスト。

 そこには、『仮称:プラティガ-二代目作成計画書』と銘打たれていて。


「おまえは、おまえだけの怪獣プラティガ-になればいい。ぼくは、これを全力でサポートする」

「二代目は〝ティガーくん〟では?」

「公式にそんな設定はないし、仮にあったとしてもぼくは認めない」


 ゆるきゃらはゆるきゃらだと梁井くん。

 そんな彼の視線の先には、ティガーくんぬいぐるみがあった。


 デザインは、丸い線だけで描いたような恐竜で、古いもののように見えるが日焼け痕の一つもなく、やっぱり大切にされていることが見て取れる。

 なるほどね。


「さては梁井くんって、いいやつですね?」

茶化ちゃかすな」


 いや、マジで言ってるんだけど。

 私は寝そべったまま彼を見上げて、本心からの問いかけを投げる。


「どうして、ここまでしてくれるの?」

「見たいからだよ」


 彼は屈託のない眼差しで答える。


「もう一度、この現実で、怪獣の姿を」


§§


「さてと、じゃあデザインを模索もさくしていこう。具体案とかあるか、秕海?」

「それを私に聞く?」

「だよな。なら、先人の技から学びを得るしかない。秕海は、怪獣作品をどのくらい見たことがある?」


 難しい問いだ。

 プラティガ-を題材としたものなら一通り。

 けれどそれ以前とか、別のシリーズとかはぜんぜん解らないというのが本当のところである。


「つまり、歴史とか技術的なものはわからないわけか」

「不都合がある?」

「そういうわけじゃないが……どうだろう、秕海」


 彼が、一つの提案をする。


「これから一緒に、本邦で元祖と呼ばれた怪獣映画を視聴してみないか? なにかアイディアが浮かぶかもしれない」


 とくに反発感は生じなかった。

 怪獣そのものならともかく、作品についてなら間違いなくこのオタクくんのほうが造詣ぞうけいが深い。

 なら、彼がこれまで見てきたものをなぞることで、私も新しい怪獣へのイメージを沸き立たせることができるかもしれないと思ったのだ。


 同意を返すと、彼は大型端末を操作し始めた。

 どうやらこれで見るつもりらしい。


「起きて来いよ、そこからじゃ画面見れないだろ?」

「……そっちが来なさい」

「おっと!?」


 梁井くんのそでを掴んで、引きずり倒す。

 ベッドにお互い寝転んだ形。

 なんとも言えない顔をする彼だったが、本題を思い出したらしく端末を頭上にかざす。


「……やっぱり起きて見よう。ぼくは長時間端末を支えている自信がない」

「だったらこうすればいいのです」


 端末に私は手を添える。

 二人で半分ずつ持つ形になった。

 梁井くんの喉がゴクリと鳴る。


「おまえ、そういうやつだったのか?」

「なにが? 私は怪獣ですけど?」

「それもそうか」


 一瞬で納得したらしい彼は、端末を操作。

 画面が切り替わり、打ち寄せられる波と配給会社のロゴが映し出される。


 上映会が、はじまった。

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