第12話 竜人王バーラ戦
武器チェンジを使った瞬間、目の前に竜人王バーラが出現する。真っ赤な鱗を身に纏い三メートルほどある人型のそいつは、すぐさま俺に気がつくと尾の槍を構え攻撃体制に入った。しかし真正面から戦うつもりはもちろんない。そもそも武器なんて持ってないからな。この状況で正々堂々戦うのは無理に決まっている。
というわけで裏技的な倒し方をするのだが、これも慣れれば特別難しいものでもない。竜人王バーラの攻撃パターンは大きく分けて三つ。一つはダッシュからの突き攻撃。これは中距離の間合いから放たれる攻撃で、素早く避けにくい。二つ目は接近戦で使われる横薙ぎ攻撃。尾の槍を真横に振り回すだけの攻撃で、発生もそこまで早くはないが、威力が高く当たれば瀕死にされてしまう。そして最後。長距離間合いからの攻撃で、ジャンプして空中からの突進である。これが一番威力が高く、当たれば間違いなく即死。だが、今回はこのジャンプ突進を誘発して楽に倒すのが目的だ。
そもそも竜人王はボス部屋で戦うことを想定して設計されており、こうしてフィールドに出てくることは普通はない。だからこその攻略法である。
俺は竜人王が見失わないように一定の距離を保ちながら特定の場所まで誘導する。石造りの待機部屋を出てすぐ左手は天空城の外側をグルリと囲うように階段がくっついている。足を踏み外せば地上に真っ逆さまで、常にワイバーンたちからの攻撃も飛んでくる。俺はその階段まで竜人王を誘導し、ワイバーンたちの飛ばしてくる火球を避けながら特定の位置まで登った。
「よしっ。これで準備は整った」
竜人王を目的の場所に誘導し、完全に準備は整った。俺は階段を猛ダッシュで下り、下側にいる竜人王の頭上を思い切り飛び越える。そのまま先ほど通ってきた階段の入り口まで振り返らずに駆け抜けた。階段の入り口に辿り着いた俺は右手に城内部に通じる通路には入らず、その場で待機する。背中には何もない。つまり会談もなければ柵もなく、ただ大空が広がっているだけだ。
そして長距離の間合いによってジャンプ突進をする竜人王。ここまで誘発できれば後は楽だ。誰もが想像できる通り、俺はそのジャンプ突進を通路に向かって避ける。するとあら不思議。竜人王は真っ逆さまになって地上へと落ちていった。
「うむ、余裕だったな」
そして俺は軽々と【ワイバーンの天空世界】を攻略すると脱出するのだった。
+++++
【レベル:101 経験値:238/101000】
現実世界に戻りレベルを確認すると、想定通りレベルが1上がっていた。この竜人王バーラの経験値はちょうど十万。まあ普通ならもっと高レベルになってから攻略するダンジョンだ。これくらいの実入りは当たり前だった。
「さてさて、今日は何周しようかな」
圧倒的効率を手に入れてニマニマと呟くと、背後から首元に何か冷たい物を突きつけられた。おっと、これは想定外だ。後ろを振り返ろうとするとその冷たく鋭い物をさらに突きつけられ、そして女性らしき声でこんな熱烈なラブコールを聞かされた。
「振り向かないで。殺されたいの?」
「……いやぁ、まだ死にたくないかな」
「そう。じゃあ質問にだけ答えて」
流石にこんな序盤で死んでたまるか。そう思って返事すると女性の冷たい声が返ってきた。質問の内容次第だが彼女はすぐさま俺を殺すつもりはなさそうだった。少なくとも俺に価値を見出している。まあそもそも最初から殺すつもりだったら俺はすでに死んでいるだろう。この場合、脅されている俺よりも情報を欲している相手の方が立場が低い。一見、生殺与奪の権を握られている俺の方が立場が低いように思えるが、それはそこまでしないと相手が同じ土俵に立って取引できないということを意味しており、間違いなく俺の方が有利な状況だ。
「ああ、いいけど。何を知りたいんだ?」
「貴方……一体何者? あのバンドムを傘下に加えて何を企んでいるわけ?」
「う〜ん、さっきの場面を見ていたなら知っていると思うんだけど。俺はアレン・オックスフォード。ただの公爵家の長男さ」
俺がそう返すと背後から呆れたようなため息が聞こえた。どうやら聞きたかったのはそういうことじゃないらしい。でも現状ではそれ以上でもそれ以下でもない。
「はあ……。まあいいわ。何者であるかというはともかく、何でバンドムを手下に加えようとしたの? それにあの素手パリィは何? しかもこの高難易度ダンジョン【ワイバーンの天空世界】を攻略するには流石に帰ってくるのが早すぎたわ。どうやったの?」
とんでもない量の質問が飛んできて今度はこっちがため息をつきたくなる。しかし大人な俺はため息を我慢してこう言い返した。
「待て待て。とりあえずアンタが何者かも聞きたいんだが」
「そんなの教えるわけないじゃない」
やっぱりそうだよなぁ。う〜ん、どうするか。一瞬思考を働かせて考えをまとめると、行動に移す。相手の顔や姿どころか、レベルも武器も何も分からない状況だ。しかし確実に分かることは、彼女が俺を殺す場合、絶対に一瞬の躊躇が生まれるということ。何故なら彼女は俺が何かしらの情報を持っていると考えていて、それを手に入れたいと思っているからだ。俺を殺すデメリットと自分のピンチを天秤にかける時間が必ず生じてしまう。だから俺は──。
足を後方に払い相手のバランスを崩したところで振り返る。相手は慌てて俺の首筋に当てていた短剣らしきもので反撃してこようとするが、その時に生じる一瞬のためらいを逃す俺ではない。そのまま短剣も払い遠くに飛ばしてそのまま馬乗りになる形でマウントを取る。
そしてようやく彼女の顔が目に入るのだが。綺麗な金髪を肩で揃え、涙目でこちらを睨みつける美少女が一人。この顔は先ほど見た。彼女はバンドムが侍らせていた女性の中に紛れていた一人だった。
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