第11話 武器チェンジの使い道

「ここの祠の奥に行けば【ワイバーンの天空世界】に出ることができる。精々もがき苦しんで死んでいくといいさ。お前のせいで俺は後でバンドム様に呼び出される羽目になったんだからな」


 門番をやっていたベンという男に断崖都市の最奥地にある祠【天空の祭祀場】まで案内してもらった。彼は俺を憎々しげに睨みながらそう言い残して去っていく。確かに彼がバンドムに呼び出されるのは俺のせいかもしれないが、それでグチグチ言われるのは筋違いというか逆恨みもいいところだ。だが彼に恨まれたところでどうということはないし、俺の今後の活動に影響を及ぼすとは到底思えないので放置一択だった。


 この【天空の祭祀場】は両脇に竜種の石像が一列に並び、その奥にダンジョンへの入り口である時空の狭間が存在する。チラチラと松明が瞬き、石像の影が地面でゆらゆらと揺らめいていた。俺は石畳の地面を音を鳴らしながら一直線に歩き、ダンジョンの入り口の前まで来た。


 一旦ダンジョンに潜る前に準備を怠っていないか最終確認をする。といっても、装備は先ほどからパンイチニンジンスタイルだし、特別武器も用意する必要がないので確認することもあまりないが。絶対に必要なのはスキル『武器チェンジ』とレベル100、そしてだけだからな。


 スキル『武器チェンジ』は自分の武器だとされているものを即座に切り替えるスキルだ。それ以上でもそれ以下でもないスキルだが、このダンジョンにおいては必須スキルとも言える。自分の武器であると認定させるには『アイテム属性が武器種であること』と『装備判定されていること』なのだが、ここにあるとある抜け道を使えばこのダンジョンは簡単に攻略できてしまう。


「よし、行きますか」


 最終確認が終わり、俺は一人そう呟くと気負わずダンジョンの入り口に足を踏み入れるのだった。



+++++



 ダンジョン【ワイバーンの天空世界】は天空に浮かぶ巨大な城をモチーフにしたダンジョンだ。その周囲にはワイバーンたちが飛び回りプレイヤーを狙い、城の内部には人型の竜種──竜人が徘徊している。竜人の特徴として圧倒的な強靭と筋力を持ち、雷魔法と自身の尻尾を使った槍を攻撃手段とし、彼らは攻撃を喰らいながらでも突き進んでくる。


 そして、このダンジョンはラビリンスタイプに分類され、いくつかの正解のルートを辿るとボス部屋に辿り着き、そのボスを倒せば攻略完了となる。ちなみにダンジョンには大きく分けてラビリンスタイプとフィールドタイプに分けられていて、以前攻略した【巨人ダーマの精神世界】はフィールドタイプに分類される。


 しかしいちいち正解のルートを辿って攻略するのは効率が悪い。しかもこの【ワイバーンの天空世界】はやけに無駄が多かった『ブラッド・ワールド』内でも随一に無駄が多いとされるダンジョンだ。この攻略法が確立されるまで見向きもされず、不人気だったのにはこういった理由もあった。


「しかし……ここで役立つのが武器チェンジなんだよな」


 俺はポツリと呟くとダンジョンの待機部屋でいきなりスキル『武器チェンジ』を使う。このダンジョンの最大の無駄は、壮大すぎる道のりを歩き回り、数多のワイバーンや竜人を倒した後に辿り着くボス部屋が、この待機部屋のだということだ。待機部屋内の壁に長い時間かけて集めた宝玉をはめ込むとボス部屋が開くのだが、ここに戻ってきたときの徒労感は半端ない。


 しかしその無駄を最大限省くのがこの『武器チェンジ』だった。まあこんなスキルでこの破壊不可の壁を壊したり自分をボス部屋に転移させることなんてできるはずがない。のだが、ここで逆転の発想が生まれる。


 

 


 その発想に至ったプレイヤーたちはこの『武器チェンジ』を利用して、ダンジョンボス【竜人王バーラ】をこの待機部屋に呼び出すことに成功した。その方法は至ってシンプルで、竜人王の持つ尻尾の槍を自分の装備として誤認識させ、持っている小石とその槍をチェンジさせればあら簡単、槍と同時に竜人王まで召喚されるという仕組みだった。


 ここでテクニックが求められるのは竜人王の槍を自分の装備と誤認識させる方法だった。こればっかりはちょっとしたコツが求められるのだが、その武器が明確にどの位置にあるのか認識し、かつその武器の扱い方を熟知しなければならない。自分の装備だと判定されるには『武器の位置を把握していること』と『武器の扱いを把握していること』が必須条件だからだ。


 武器の扱いは竜人王の槍を手に入れてから練習すればなんとかなるが、武器の位置を認識するにはタイミングを正確に把握しなければならない。つまりこのダンジョンに召喚されてから──というより、正確にはこのダンジョンが生成されてから何秒後に、竜人王がどの位置まで移動しているのか、というのを覚える必要がある。


 だが俺はそんなテクニックはとっくに習得済みなので、的確に『武器チェンジ』を行い、小石を犠牲にダンジョンボス【竜人王バーラ】をこの待機部屋に召喚するのだった。

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