第13話 白百合騎士団の女
「で、アンタは一体何者なんだ?」
馬乗りになってもう一度問う。金髪の女は涙目でこちらを睨みつけていたが、この状況から反撃の余地がないことを悟ったのか、サッと視線を逸らして言った。
「私はアルべニウム王国の白百合騎士団に所属する騎士よ。宰相からバンドム組の調査と殲滅を依頼されて潜り込んだの」
「……なるほど。近衛騎士か」
ここアルべニウム王国でも最強の一角と評される白百合騎士団。ちなみにもう一角は青鷺騎士団だ。白百合騎士団が女性のみで構成されているのに対し、青鷺騎士団は男性のみの騎士団である。どちらもアルべニウム王国の国王直属の組織としても有名で、今ここで対立するのもまずい。アルべニウム王国はRTAに必要となるダンジョンを複数所有しているからな。【巨人ダーマの精神世界】、【ワイバーンの天空世界】、他には【ゴールデン・フォレスト】なんていうダンジョンもあるな。これは金策には持ってこいのダンジョンで、300レベルを超えた頃に必要となる超高価アイテム【エリスの涙】を買うときに必須だった。
だからここでアルべニウム王国と敵対してしまうのはまずい。だがバンドム組の人脈と物量は少し欲しかった。どちらが重要かと聞かれればアルべニウム王国から敵対されないことだが、バンドム組の力があればもっと効率よくレベリングが出来るはずだ。しかし……ゲーム時代にはこんなイベントなかったんだがな。バンドム組はいつまでもこの断崖都市リアブールを牛耳っていたし、白百合騎士が出てくるのはもっとストーリーが進んでからだ。俺が悪役のアレンに転生したからか、はたまたゲームの世界が現実になったからか。どちらにせよ、ゲームの枠組みから少しずつズレていっているのを感じる。それはともかく——アルべニウム王国かバンドム組か、どちらを取るかを一瞬で思考して……俺は両方取る選択肢を生み出すことにした。
「それで? 結局、貴方は何が目的なの?」
考え込んでいたら、馬乗りにされてマウントを取られているとは思えない不遜な態度でそう聞いてくる金髪の女。俺はそんな女を見下ろしながらニッと笑った。
「アンタ、レベル9999に興味はないか?」
「…………は?」
俺の問いに訝しげに眉を寄せ女はそう言った。俺は馬乗りをやめ立ち上がる。背中についた土埃を払いながら地べたに座り直した女の前に俺は両手を広げて立ち、堂々と言い放った。
「俺はレベル9999になる男だ」
「はあ……? 無理に決まってるでしょう? レベル9999どころかレベル1000すら超えられる人間は少ないのだから。無理無理、あり得ないわ」
「それはアンタが常識に捉われすぎているからだ。俺なら出来る。間違いなくな」
自信満々に俺は言う。白百合騎士団の女は小馬鹿にするように鼻で笑うとこう尋ねてきた。
「それで? そのレベル9999はどうやってなるつもりなの?」
「詳細に話すと長くなるからな、そこまで話すつもりはないが……少なくともバンドム組が必要となる。それだけは確かだ」
「はっ! 詭弁ね! そんな戯言が通用すると思ってるの? どうせバンドム組の資産や人脈あたりが目当てなんでしょ?」
「戯言ではない。真実だ。それと……資産や人脈が目当てというのは正しいな」
それでも女は小馬鹿にする表情をやめない。まあ、口だけで理解されないことは分かり切っていた。そこで俺は女にとある提案をすることにした。
「そんなに信じられないなら信じてもらえるように行動しよう」
「……どういうこと?」
「俺の今のレベルは101だ」
そう言って俺はステータス画面を表示させ、女に見せる。女は訝しげにステータス画面を見てから、再び俺の方を見てきた。
「それは見れば分かるけど……それがどうしたのよ?」
「このレベルを俺は一週間で300まで上げる」
「はあ……!? いや、無理に決まっているでしょ! そんな馬鹿なこと!」
俺の言葉に女は驚くように声を上げて叫んだ。端から無理だと決めつけてくる女に俺は不遜な笑みを浮かべる。無理だ無理だと思われていた方が、その不可能を突破した時の反動が大きくなる。こいつは自分の予想を超えてくる人間だと、こいつは不可能を可能にする人間だと、そう思われる。結局ゲーマーというのは皆他人からそう思われたくて時間を才能を人生を捧げるのだ。
「俺なら出来る、間違いなくな」
そもそも何度もやってきたことだ。今さら出来ないなんてことはあり得ない。これは自信ではない、歴とした事実だからだ。しかし俺の言葉に信じられないような目で女は見つめてくると言った。
「無理に決まってるわ……。レベル300なんて才能ある人が何十年かけて到達する域なのよ……」
「じゃあ俺がそれを達成すれば、アンタは俺のやることの邪魔をしない。そう約束してくれ」
俺の言葉に神妙な表情で女は頷くと言った。
「分かったわ。約束する。そもそもそんな夢物語、成し遂げられるわけないもの」
まるで真実を語るようにそう言った女。こうして俺は一週間の猶予を得た。バンドムに【ワイバーンの天空世界】を攻略したことを伝え、実績と力で屈服させないといけないし、周回してレベル300まであげないといけないし、やることが山積みだが、この現実ならではの、予測不可能なアクシデントが起こるごとにチャートを考え直すのも案外楽しいものだと、俺はそう思うのだった。
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