第6話 絡んできた冒険者の末路

「うらぁあああああああああああああ!」


 一直線に俺に向かって大剣を振りかざしながら突っ込んでくるベリアル。やはり彼は対人慣れしていなさそうだ。愚直に突っ込んでくるタイプは一番処理が楽なのだ。対人において一番重要となるのは行動誘導で、基本自分の行動誘導を相手に強引に押し付けることが出来た方が勝つのだが、ベリアルの場合は取れる選択肢を狭めていって相手の行動を誘導する、みたいな工程が必要ないくらい分かりやすく負け筋の行動をしてくれていた。


「ハハッ! ビビって動けないか! 可哀想になぁ!」


 満面の笑みで俺の目前まで迫ると、単純な袈裟斬りで大剣を振り下ろす。おそらくベリアルのレベルが150前後だと仮定すると、重騎士なので筋力値はおおよそ350前後。そこに大剣の相乗効果で150くらい乗るから500程度。で、俺の筋力値が123で、レイビアで50の補正が入り173。500の三分の一が166ほどなので、をするにはギリギリ足りている。


 俺は大剣の軌跡を正確に見極めながら、合わせてレイピアを振るった。ガキンという鈍い音とともにベリアルは


「なっ、何が起きたんだ!?」

「もしかしてあれは……!」


 周囲の観戦していた冒険者たちが一斉に驚きの声をあげる。そう。これは『ジャストパリィ』という技だった。相手の攻撃に合わせて弾くように剣を振るい、そのタイミングがパリィ判定の範囲内であれば、相手の攻撃は弾かれ同時にスタンデバフが入るという技だ。筋力値が相手の三分の一は必要だという前提があるが、人型の魔物でも使える技なので、RTA走者には必須というか、前提のスキルとなっていた。


「どっ、どうなってる! アレンはオックスフォード家の面汚しで、ただの雑魚じゃなかったのかよ!?」


 ベリアルはスタンを食らい動けない状態で必死に焦るように叫ぶ。その姿は滑稽以外の何物でもない。


「しかもオックスフォード家といえば魔法の家系だろ! なんで剣が使えてるんだよ!」

「そりゃあ魔法一辺倒で効率は求められないからな。両方極めてからがスタートラインなんだよ」


 俺はベリアルの戯言にそう返すと、俺は彼を放置してスキルショップに向かう。あんな木っ端にわざわざ時間を使う必要はないし、逆恨みされてもなんの問題もないと思っているので基本放置でいいだろう。いきなり歩き出した俺の背中をレイアは必死になって追ってくる。


「アレン様! なんですか、あの技は!?」

「いや、普通に『ジャストパリィ』だけど?」

「それは知ってますよ! なんで『ジャストパリィ』をあれだけ正確に一発でできるのか、ってことです!」


 ……ん? 普通一発で決めるものじゃないのか?


「それが普通じゃないのか?」

「普通じゃないんですよ! 『ジャストパリィ』って基本、何度か相手の攻撃を見て、実際に受け止めてみてから狙っていくものであって、普通はあんな一撃で完璧に決められるものじゃないんです!」


 そうなのか。知らなかった。


「でもそれじゃあ、効率が悪いじゃないか。一発で決めた方が効率がいいだろう?」

「そもそも決められないって言ってるんです! 一発で決められる方がおかしいんですよ!」


 おかしいとまで言われてしまった。確かに『ジャストパリィ』はズブの初心者には難しいだろうが、慣れた人だと相手の攻撃を見極めて一発で決めるのが普通だし、それができなければRTAなんてやってられない。俺がそんなことを考えながら腑に落ちない表情で首を傾げていると、レイアは諦めたようにため息をついた。


「はあ……昨日からアレン様の様子がおかしいとは思っていましたが、ここまでおかしくなっているとは思ってもいませんでしたよ。いきなり頭のおかしいやり方でダンジョンの周回を始めて高速でレベルが上がっていくし、最難関テクニックであるパリィも軽々と決めてしまうし……」


 いやいや、パリィが最難関ってのは流石にありえない。それだったらこれ以上の高難易度テクニックはどうなるんだ。流石に認識の違いがあり過ぎて困惑していると、考えがまとまる前にスキルショップの前に着いてしまった。


「と、ともかく必要なスキルを買ってくるよ」

「なんのスキルを買うんですか?」

「ああ。『武器チェンジ』ってスキルだな」


 俺が言うとレイアはさっぱり理解できないって表情で首を傾げた。


「なんでそんな最弱スキルをわざわざ買うんですか?」


 まあこれが最弱スキルというのには同意だ。『武器チェンジ』はただ即座に武器をチェンジできるだけで、それ以外の効果は何もない。少し特殊な使い方をしないと普通は使い物にならないスキルだからな。


「まあそれは後で分かるよ。ともかく買ってくる」


 そして俺はスキルショップで『武器チェンジ』のスキルを手に入れると、ホクホク顔で屋敷に戻るのだった。これで明後日からは別の狩場でさらに効率よく周回ができる。まあレベル100は欲しいので、明日はまたダーマ狩りになるのだが。

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