第5話 絡んでくる傲慢な冒険者
日暮れ前、ダンジョンの入り口前でレイアはペタリと座り込んでいた。
「ああ〜、本当に疲れました……」
「これくらい普通だろ。レベルも25しか上がってないし」
「いやいや! 一日で25は異常ですよ!」
確かに異常である自覚はあるがRTA勢としてこれくらいできないと走者を名乗る資格もない。そもそもRTAをしようと思う時点で異常なのだからこれくらいは許して欲しい。うん、まだまだ異常だと思われそうなレベリングなんていくらでもあるのだから。
「で? この後はどうするんですか? まだ続けます? それとももう帰りますか?」
そう尋ねてくるレイアだったがその視線は間違いなくもうやめてくれ、帰らせてくれと訴えかけてきていた。まあ日も暮れるしレベルも最低限まで上げられたので問題ないか。現在75。これならあのスキルが使えようになったので、あの周回もできるようになる。
「いや、もう帰るよ。でもその前に街のスキルショップに寄ろうか」
「新しいスキルですか?」
「ああ。それがあれば他の狩場で他の周回ができるようになる」
「まだ経験値を追い求めるつもりですか!?」
「いいや、今回は経験値ではないな。経験値以外にも必要なものはあるだろう?」
そう言って俺は街に歩き出した。慌ててレイアが俺の後ろを追ってくるが、俺の頭の中はすでに周回に関することと、その後どうやって最速でカンストするかのチャートに関することを考えているのだった。
+++++
「ねえ、あれアレンじゃない?」
「確かにアレンね」
「よくも堂々と街を歩けるよね」
「本当に。オックスフォード家の面汚しのくせに」
街を歩くとそんなヒソヒソ声が聞こえてくる。まあ俺からすれば、悪口なんていちいち気にしてたら効率が悪いから全く気にしないんだが、レイアは不満そうにムスッとしていた。
「本人を前に堂々と悪口を……」
「俺は気にしてないからレイアも気にすんなって」
「でも……」
俺が言っても気にしてそうなレイア。あんな木っ端の言うことなんてただの雑音なんだから、やっぱり気にするだけ無駄だと思うんだけどなぁ。
「しかしレイアはなんで俺にそこまで構ってくれるんだ? 俺はオックスフォード家の面汚しだぞ?」
「もしかして覚えていないのですか? いや、でも確かにアレン様は覚えていないでしょうね」
なんのことだろう? アレンの記憶を参照しても出てこないが、昔に何かあったんだろうな。出てこないってことはアレンにとって重要ではなく忘れても良かった事象なんだろうが、少し気になる。そんなふうに話しながら大通りを歩いてスキルショップに向かっていると、直接声をかけてくる者がいた。
「よお、レイア。俺の話は考えてくれたか?」
声のした方を見ると、高価で重厚な鎧を身に纏った男がいた。胸を張っていて、自信にあふれている感じがする。その証拠に胸の冒険者プレートは金で出来ていた。つまりB級冒険者ということだ。B級が一番調子に乗りやすいからな。上級者の仲間入りしたばかりで、下々を見下し、そのくせ一丁前に向上心だけ溢れてる奴が多い。そこからふるいにかけられて上に上がれる者とそのまま停滞する者で分かれるのだが。レイアはそんな彼に冷ややかな視線を向けると言った。
「ベリアルですか。何度も言いますが、私は冒険者には戻りませんよ。私はアレン様の家庭教師なのですから」
「……アレンか。こんな乳臭い餓鬼のお守りして楽しいか?」
「楽しいか楽しくないかじゃないんですよ。私はアレン様に恩義があるのでそれを返そうとしてるだけです」
淡々とレイアが言うと、ベリアルと呼ばれた男はようやく俺の方を見た。じっくりと見定めて、鼻で笑ってくる。
「ハンッ。やっぱり強そうには見えないな。面汚しのくせにレイアを独占してんじゃねぇよ」
「いや、独占してるつもりはないが。てか邪魔だからどいてくれないか? 俺はスキルショップに用があるんだ」
お前みたいな奴に構ってると効率が悪いし、いちいち面倒なんだよな。言外にそう伝えると……というかほぼ直接そう伝えるとベリアルは額に青筋を立てた。
「お前……面汚しの雑魚のくせに調子に乗るなよ」
「そんな面汚しの雑魚に負けたらさぞ笑い者だろうな」
どんなに煽られても貶されても自分から攻撃しない。これは俺のポリシーだった。ここは効率以上に譲れない部分なのだ。だから俺は邪魔者が現れたとき、いかに効率的に相手を煽り攻撃を引き出すかを重要視する。前のエイジのときもそうだったな。
そして俺の思惑通り煽りに耐えられなかったベリアルは背中に背負っていた大剣を握って構える。
「殺されたいらしいな」
「いや、死なないと思ってるから言ってるんだよ」
おそらくベリアルのレベルは150前後。B級になるってことはそれくらいはあるだろう。しかしそれに対して俺のレベルは75。昨日今日で上がったとはいえ、まだ足りない。でも負ける可能性はどのルートを辿ってもあり得なかった。
「なんだとぉ……! だったら殺してやるよ!」
そう言って一直線に飛び出してくるベリアル。良かった、一番処理が楽なルートを辿ってくれていて助かる、と思いながら俺はレイピアを引き抜き構えるのだった。
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