第4話 高速周回レベリング講座

「しかしなんであそこまで煽ってしまったのですか? というよりどうやってあんな早くレイピアを突きつけることができるようになったのですか?」


 レイアに部屋まで引っ張られそう聞かれた。彼女は怒るような困惑するような表情をしていたので、とりあえず彼女に理路整然と説明することにした。


「煽ったのは単純に煽った方がお得だからだ。お得というのはエイジの心をコテンパンにしておけば反撃できなくなるだろうし、そうすれば俺の邪魔はしてこなくなるだろうという打算的な考え方からきている。まあエイジはそのまま調子乗らせたままでも良かったのだが、そうすると足を引っ張ってくる可能性があり、効率が悪いからな。邪魔になりそうな芽は最初に摘んでおいた方が楽なのさ」


 俺が淡々と説明していくと、レイアはより困惑の表情を深めていった。しかし怒ろうという感情は完全に消え失せてしまったらしくずっと目を白黒させているだけだった。彼女が口を挟んでこないのを良いことに、俺はさらに説明を続けていく。


「でだ、レイピアを早く引き抜けるようになったのは、こっちも単純な理由で、レベル上げをしたからだな。今日行ってきた『巨人ダーマの精神世界』で経験値稼ぎをし、一気に50レベルまで上げてきた」


 俺がそう言った途端、レイアは目を見開き俺の顔の近くまで机越しに乗り出して叫んだ。


「50レベル!? つい先ほどまではレベル30前半とかでしたよね!? どうやったんですかそれ!? てか『巨人ダーマの精神世界』って50レベルでも普通に無理なダンジョンだったはずですけど!? 本当に攻略してしまったんですか!? 少なくともその10倍のレベルは必要なダンジョンだったはずですが!?」


 まあそう驚く理由も分からなくもない。しかしそこまで説明する義理はないし、教えたところでレベリング効率に影響するわけでもないと思い、最初は教えるつもりはなかったのだが……俺はとあることを思いついて結局教えることにした。


「どうやったのか——それを口で説明するのは難しいから明日一緒に『巨人ダーマの精神世界』に行こうか。そこでどうやったか説明してあげるよ」

「それは構いません、というより普通に助かりますけど……なんだか急に不安になってきたというか……」


 口元を引き攣らせながらレイアは言った。このダンジョン周回自体には協力者はいらない……というよりかえって邪魔になるのだが、今回ばかりは色々なしがらみがあるのでそれらから逃れるためにはレイアの協力が必要だった。その第一歩として彼女には俺の高速レベリングを見てもらって協力的になってもらうしかない。


 俺の目標は世界一、そしてその先の最速レベルカンストである。そこまで行くにはやはり一人では足りない。効率を求めるには他人も巻き込む必要があるのだ。


「というわけで、今日は寝る。明日に備えてな」


 俺はそれだけ言うとレイアの部屋を出て自室に戻った。レイアの協力が得られれば少なくとも300レベまではあっという間だろう。今の俺に足りないものはお金と自由だけなのだからな。



+++++



 次の日。レイアに俺と課外特訓をしてくると両親に伝えてもらい正式に『巨人ダーマの精神世界』に来れたので、俺は今日は一日中周回をするつもりだった。ちなみに両親にはまだエイジを煽ったことが伝わっていないみたいだ。おそらくエイジのプライドが俺に言い負かされた事実を受け入れられず、伝えられなかったのだろう。でもそっちの方が都合がいいのでとりあえずこれからは放置して、後でタイミングを見て両親ともども心を折ることにした。


「でだ、まずはこのダンジョンをどう周回したのか見せようと思うんだが……とりあえず黙ってついてきてくれ」


 俺はダンジョン前でレイアにそう言った。こればっかりは実際に周回しながら説明するしかない。まあレベル的にはレイアの方が圧倒的に高いから、移動についてこられないってことにはならないはずだし。しかしレイアは俺の格好を見て口元を引き攣らせていた。


「あの……アレン様。その格好はどうしたのですか……?」

「ああ、これはパンイチニンジンスタイルというものだ。これが一番効率いいからな」

「そ、そうですか……」


 ドン引きされている気がするが、気にしたら負けだ。というより効率を求めたらこれしかないのだし、これにしない理由を見つける方が難しい。


「ともかく、今回は説明しながらやっていくから」

「分かりました。よろしくお願いします」


 俺の言葉にレイアはコクリと頷いた。それを確認した俺は早速ダンジョン内に入ろうとする。時間は無限ではないのだ。効率を重視するならいちいち会話している時間ももったいない。俺が裂け目みたいなダンジョンの入り口に近づくのを見て、レイアが慌てて追ってこようとする声が聞こえてきた。


「って、あっ! ちょっと待ってください! いきなりすぎます! まだ心の準備ができてません!」


 しかし俺はそのレイアの叫びを無視して裂け目に入り、早速最速周回を始めようとする。まあ焦りすぎてレイアを置き去りにしたら協力を得られなくなるので、彼女なら追いついて来れるだろうという塩梅で最速を叩き出すつもりだ。


 ダンジョン内の待機室にレイアがきたことを確認すると、俺は彼女が何か言う前に駆け出した。もちろんチャート通りに通路の左側に沿って走る。


「だから早いですって! もう少しゆっくりして欲しいんですけど!?」

「いやいや、これくらい普通だろ。てか別についてこられない速度じゃないはずだが?」

「確かにそうですけど! でもいきなりすぎて心臓に悪いんですよ!」


 いきなりすぎて心臓に悪いと言う考え自体が理解できないが、まあそこら辺は俺には関係ない。俺は通路を出て精神世界の森まで来ると、まずは三本の木のところまできた。


「ここまで最速できたらこの小石を斜め47度の方向に向かって蹴り出すんだ。50レベルなら少し弱めに蹴った方がいいな。強すぎるとファイアバードの頭上を通り過ぎていく可能性がある。で、このくらいで蹴り上げると、一分……ではないな。50レベルだと五十三秒でファイアバードまで到達し、ぶつかる」


 俺が説明しながら実践すると、レイアは意味がわからないといった表情で目を白黒させていた。


「え? え? 斜め47度? 五十三秒後?」

「ともかく、今度はこっちだ」


 俺は混乱しているレイアに一言だけ添えて大岩の方に駆け出した。俺が駆け出したのを見て、混乱の表情をしたまま俺を追うようにレイアも駆け出した。


「キシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 大岩にたどり着く頃にはファイアバードに石がぶつかり怒りの声が聞こえてくる。それを聞いたレイアは口元を引き攣らせながら言った。


「なんで本当にぶつかってるんですか。それになんでファイアバードがいることを知ってるんですか。しかもどうすれば遠く離れたファイアバードに石をぶつけられるんですか……。理解が追いつかなくて頭がパンクしそうです」


 それは何千回、何万回と繰り返し試行錯誤してきた賜物なのだが、それを説明しても理解してくれないだろうし黙ってエンチャントを始めた。


「って、エンチャント? 普通に無声詠唱もしてるし、どうなってるんですか……」


 ひどく疲弊した声でレイアが言った。俺は彼女にエンチャントについて説明しながら二重でレイピアに刺突エンチャントを付与していく。


「今かけているのは刺突のエンチャントだな。この一般的なレイピアの貫通力が150で、俺の使う刺突エンチャントで貫通力がさらに255上がる。エンチャントを二回かけると貫通力が660になって、そこから落下補正で貫通力に40の補正が入るから、ようやく巨人ダーマの防御力698をギリギリで超えられるんだ」


 まあこの方法は刺突エンチャントの貫通力増加量が255を超えてないとできないし、二重エンチャントもできないといけないので、普通は使えない。俺がRTAで世界最速を叩き出せたのは、この二つの方法論を確立したのが地味にデカい。もちろん他にも要因はいくらでもあるのだが。


 俺の説明を聞いたレイアは余計に目を白黒させている。


「刺突エンチャントで255上昇……!? あり得ません! そんなの聞いたことないレベルなんですけど!? 普通なら20で精々なはずです! しかも二重エンチャントなんて普通の人じゃ扱えない高等テクニックだと思うんですけど……!」


 しかしできるものは仕方がない。ともかく混乱しているレイアは放っておいて、俺はエンチャントを終えるとズシンズシンとやってきたダーマが持ち上げた大岩に張り付いて、落下しながらその脳天にレイピアを突きつけた。一撃で粒子になって消えるダーマを見送ると、俺たちはダンジョンから脱出するのだった。

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