第50話 世知辛いな
「并州刺史に董卓が就任か」
劉良は、報告書を読みながら唸る。
母上と父上が会ったあの日から数日が経った
結果から言うと完全に
仲直りとはいかなかったみたいだが
琢県の屋敷に帰る父上が
母上と会話していて笑顔も見えていたことから大きな進歩があった事はわかる。
まぁそれに至るまでに何が起きたかは、
…息子が言う事ではないだろう。
「董卓…ふむ知らなかったが刺史をしていたのだな」
「隣の州でもなければ知らなくても当然」
自分と少し違うが前世の記憶を持っている
呉範にそう告げるとそれもそうかと呉範が頷く。
「ただ」
「ただ…何だい?」
「董卓が今の時期に并州刺史になっていた記憶がないんだよな」
劉良は、そう言って首を傾げる。
「まぁ忘れているだけかも知れないけど」
劉良自身、時が戻ってから数年経った為か
前世の記憶が薄れてきている事を感じていた為覚えていないのも納得できた。
「ふむ…何が原因で歴史が変わったかも知れないけどね」
「それは…あるのか?」
「私達とてそうだろう?
まぁせっかく歴史が変わるのなら
いい方に変わって欲しいがね
来年には…ね?」
「…黄巾の乱か」
張三兄弟を筆頭に黄巾党が朝廷に起こした乱でありこの幽州でも大きな被害が…!?
「そうだ…黄巾の乱の時、
幽州ではある大事件がおきていた
何でこんな大事な事を忘れていたんだ!!」
「ほう?それは何だい?」
「刺史の戦死だ」
「…それは一大事だな」
光和七年二月に各地で蜂起した黄巾党
それは、幽州でも例外ではなく州都がある
広陽郡を中心に蜂起し四月には、
広陽大守劉衛そして、
当時の幽州刺史の郭勲が殺された。
その結果、幽州は機能不全に陥り
各郡の連携が取れず各々が黄巾党から
自分を守る事しかできなくなった。
そんな中で積極的に豪族や県令達と連携をし
黄巾と戦ったのが公孫瓚殿や張純殿達で
その結果、州府の力が衰え
政治的な繋がりだった派閥が
西は張純殿、東は公孫瓚殿を長として
武力による支配体制いわゆる群雄化した。
「はぁ…こんな重要なことも忘れてしまっている」
「ふむ…もしかしたら意図的に記憶を封じ込められているかも知れないね」
「誰に?何の為に?」
「さぁ?…天のみぞ知る」
「…辞めとこう頭が痛くなる」
劉良がそう言って視線を横に向けると
庭の端に立って控えている侍女が見えた。
どうやら話が終わるまで待っていたらしい。
「…気づいてたか?」
「あぁもちろん、安心してくれあちらには
会話の内容は聞かれてない」
「そう」
劉良が侍女に視線を送るとゆっくりとこちらに近づいて来る。
この侍女は、確か春蘭の部下だったはず。
「若様…こちらを」
「ありがとう」
侍女は、木簡を差し出した後
スッと離れていった。
「しかし前から思っていたが
ここの侍女達は、
すごい身のこなしだな」
「仕事の一環で鍛錬させてるからな」
「それは、護衛させる為?」
「いや…幽州は辺境だからな
いつ掠奪が来るかわからない
その時に最低限自分の身を守れるように
…わかるだろ?」
「…世知辛いな」
「言うな」
そんな状況に悔しく思っているのは、
幽州の人々なのだから…
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