第51話 軍議前

「それじゃ行ってくるわね

 良…気をつけてね」

「はい母上、母上もお気をつけて

 それと高順叔父上も

 よろしくお願いします」

「…うむ」


劉良は、商人達の集まりに向かう母上とその護衛である高順叔父上に挨拶をした後

出かける背中を見送る。


「若君」

「それじゃ我々も行こうか」

「ハッ」


そう言って劉良は、馬に乗り

自らが率いる軍勢の方に走らせる。


「準備は!!」

「いつでも出陣できます」


副官として軍を纏めている冬項が告げる。


「よし!!

 それではこれより賊討伐に向かうッ!!

 今回は、琢県県令と共闘することになる

 皆気合いを入れろ!!」

「「「ハハッ!!」」」

「では出陣ッ!!」


その声に呼応する様に兵達が声を上げた後

劉良の率いる軍勢は、荘園を出た。


琢郡 公孫瓚陣営


「劉良着陣の挨拶に来た」

「ハッ少しお待ちを県令様!!

 劉良殿がいらっしゃいました」

「…通せ」

「ハッ!!」


兵士に促され陣営の中に入ると

琢県県令の公孫瓚が側近と共に地図を見ていた。


「劉良、命により着陣いたしました」

「うむよく来た、さぁこちらに」


そう言って促された席が

公孫瓚に近い席で劉良は驚く。


「どうした?」

「いえ失礼します」

「うむ…さて劉良よ

 突然の要請ですまなかったな」

「いえ賊は、他人事ではありませんので

 それよりも今回の賊は、大物だとか?」


いつもなら賊退治は、

官兵や豪族など各々で対処するのだが

今回の様な県令から命が降る事は、

珍しく元々商人の会合に行く予定だった

劉良も予定を変えて参戦した。


「張牛角だ賊達を率いて来た

 数は、およそ三千ほどか」


その名を聞いて劉良は驚く

張牛角は、冀州を中心に名を轟かせる盗賊であり、後に褚燕と共に河北を荒らし回る人物で面識はないが

前世で褚燕が張燕に名を変えるきっかけの人物という事もあり張燕の話によく出ていた。


(…もしや来ているのか?)


「怖気付いたか?」

「いえ…あのその軍勢の中に

 褚燕という男はいませんか?」


公孫瓚は、側近達に視線を送るが誰も知らない様だ。


「その褚燕という男は、

 警戒するほどの者なのか?」

「はい褚燕は、張牛角と協力関係であり

 山や林での戦闘を得意としており

 率いる兵は、獰猛であり何より

 その速さが普通の賊とは段違いに違います」

「ふむ…その口振りだと実際に戦った事があるのか?」

「いえただ、見た事があります」


まさか前世で味方として

共に戦ったとは言えない。


「ふむ…なるほどわかった

 頭に入れておこう」

「ありがとうございます。

 それとこちらを」

「うむ感謝する」


劉良が支援物資が書かれた木簡を

公孫瓚に差し出す。


「県令、味方と思しき軍勢が接近しています」

「旗は?」

「鄒の文字です」

「よし受け入れろ」

「はっ!!」



高級武官でおよそ二千ほどの兵を指揮する

権限を持つ校尉鄒靖殿と

劉良も所属する屯田所の長官補佐沮授殿が

陣営に入ってくる。


「校尉、鄒靖すうせい命により着陣いたしました」

「屯田所長官補佐沮授、着陣いたしました」


「うむ、ご苦労確か此度は、

 半数が屯田兵らしいな

 鄒靖よ屯田兵はどうだ?」


「はっ士気は高く命令をよく聞きますが

 ただどこか余裕がないのが気になります」


その言葉に沮授が口を挟む。


「それにつきましては、

 屯田民をまとめ上げる為に

 反抗的な民を徹底的に

 排除や追放いたしましたので

 その影響でしょう」


「ここで戦果を出さないと

 そうなると思っているのか…

 確かに流民などをまとめるには、

 いい策だがあまりやりすぎると

 逃亡したり最悪反乱を起こすぞ」


公孫瓚が眉間に皺を寄せる。


「はいそこは、気をつけておりますし

 今回の戦闘でその不安も

 解消されるでしょう

 それにこの冬を越せば

 過剰に締め付ける必要もありませんし」


「なるほどこの冬に暖の取れる建物があり

 日々の食事がある安心を教え込むのか

 …まぁ良い取り敢えず今回は、

 先陣は、豪族の誰かに任せるつもりだから

 そのつもりで」


「「はっ」」


公孫瓚は、元々屯田兵に先陣を任せようと

考えていたが少し不安を感じ先陣から外す事にした。


劉良は、この会話を聞いて

もしかして自分が先陣を切らなければいけないじゃないかと思う。


「ふっ安心せよお前を

 先陣にするつもりはない」

「…失礼しました」


劉良が嫌そうにしてるのを見てとった

公孫瓚は、笑いながらそう伝える。


「しかし先陣は、

 名誉だと言う者が多いのだがな

 まぁいい後で一芝居付き合ってもらうぞ」

「承知しました」

「それでは他の者が来るまで

 待機をお願いする。その後皆が集まったら

 軍議を行うそのつもりで」


「「「はっ!!」」」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る