第48話 夫婦喧嘩
「それでは何かあればお声がけください」
「ありがとう」
春蘭がお辞儀をしたのち
少し離れた場所に控える。
高春と子敬は、庭にある離れで対面に座る。
「さぁどうぞ、毒は入ってませんので
安心してください」
「…あぁありがとう」
子敬は、かけられた嫌味も無視して
出されたお茶を一口飲む。
その後高春と子敬の間には、
無言の時間が過ぎ去っていく。
「…それで何のご用ですか?」
その沈黙を破ったのは高春だった。
「いや…その…」
子敬は、高春に対して謝罪したいのだが
何を言えばいいのかわからなくなっていた。
それだけ夫婦の間にできた壁は高かったのだ。
「…旦那様」
そんな子敬に痺れを切らしたのか高春が話しかける。
「あっ…ああ…なんだ?」
「ありがとうございました」
「そっそれはどう言う意味だ?」
突然お礼を言われ子敬は、困惑する。
「屯田所で良が旦那様に
お世話になっているらしいので」
「あっいや、良は私が手を貸さなくても
立派にやっていたよ
そう…立派にね」
「いえまだまだ子供、経験が足りません」
「君は…」
「確かに良には、能力があります
だけどそれだけで生き残れるほど
甘くはありませんそれは、貴方が一番知っているはずです」
高春の言葉に子敬は、自分を恥じた。
高春は、我が子可愛さに目を曇らせているのではないかと心のどこかで思っていたが
逆に冷静に我が子を観察し導いていたのだ。
それに比べて私は、表面的にしか息子を見ず
才がないと決めつけ
後々劉良が成果を出しているのを見て
見方をころりと変える。
私は…親失格だな。
「本当ならまだ勉学に励み色々な事を
経験する年頃なのに…旦那様」
「…何だ」
心の中で落ち込んでいた子敬は、
高春の覚悟を決めた瞳を見て息を飲む。
こんな覚悟を決めた高春を見たのは、
幽州に共に来ると言った時以来だ。
「私は、離縁でも何でも受け入れますので
どうか良の事は、許してやってもらえませんでしょうか?」
「何を言っている!?離縁など!!」
私がここに来たのは高春と劉良に謝罪をして元の暖かい家族に戻りたいと思ってきたのに
何故離縁などと言う話になるのだ!?
「元々女の身で荘園を切り盛りするのを快く思っていなかった事も知ってます。」
「そんな事は、思っていない!!」
「なら何故、この屋敷が建て替えられてから荘園に来てくださらなかったのですか?」
「それは…」
一生懸命働いたが出世の道は遠く
自分は、ずっと小役人のまま
大した給金も無く。
それに比べて
高春は、小さい村を大きな荘園にして
収益を出しそこから出された費用によって
屋敷を建て替えた。
何が君を必ず幸せにするだ
自分が惨めになる
だから…荘園を避けていた。
自分の不甲斐なさを見せつけられるようで…
「…安心してください
元々この土地は、旦那様の物です
いくら私が好きに差配をしていたとしても
それは、私の功績では無く旦那様の功績です。それにこの一年荘園の大体の仕事は、
良に教えています私がいなくなっても
この荘園は、維持できますので
…ですのでどうか良をッ」
高春がいい終わる前に子敬が机を強く叩きつける。
「…高春息子を出しにして
言わなくもいいではないか、
私に愛想がついたと」
「えっ…違ッ」
「何が違う!!
一年前から良に荘園の仕事を教えてだんだろ自分が自由になりたいから」
子敬は、自分の不甲斐なさに苦笑する。
「まぁそうだろうよ駆け落ちした男が
こんな無能だったんだから!!
出世もできず裕福な暮らしもできない
あるのは、苦労だけ
…何が幸せにしてみせるだ
足を引っ張るだけじゃないか」
子敬は、離れから見える思い出の桃の木を見る。
…私は、どこで間違えたのだろう
様々な思い出が溢れ出すが今はただ疲れた。
「高春…すまなかった」
「…えっ?」
「私は、劉良に自分の影を見ていたのかもしれない。才がない男が高望みした末路を
愛する人を幸せにできなかった末路を
劉良には、そうなってほしくはなかった
だから高望みをさせずただただ平凡な暮らしを過ごさせたかった。
…ふっ親の押し付けだな」
子敬は、高春の方に振り向く。
「この土地は、君が発展させた物だ
だから君に譲る」
「…あっいや…そんなつもりじゃ」
「愛していたよ」
君をずっと…本当に幸せな時間だった
だからもう自由になっていいんだ。
「高春、私は君をり「そこまでです」」
子敬は、最後まで言葉を紡がれないまま
倒れ込む。
「旦那様!!」
高春は、倒れ込んだ子敬の元に駆け寄る。
夫婦を春蘭は、冷たい目をして見つめていた。
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