第47話 共に幸せになると言う定義 

《劉子敬視点》


彼女と出会ったのは、

父親に連れられ宴会に出た時だった。


「初めまして高春と申します」


その姿は、甘美で彼女が現れただけで

色褪せた世界に色が付けられたように

その場が華やかになった。

…一目惚れだった。


高春は、その当時兗州の美姫とうたわれ

多くの男達に慕われていた。

それに比べて私は、

長兄に遠く及ばない落ちこぼれと言われていた。

そんな私達が婚約したのは、

大守を務めていた父と

豪族として力をつけ始めていた高家との

間で交わされた政略的なものだった。


「決して貴方は、

 落ちこぼれなどではありませんわ」

「ふっそう言ってくれるのは嬉しいが

 文武両方共、長兄に及ばない

 父から何度失望したと言われた事か」

「…子敬様」

「ッ…すまないこんな話を

 すまないな…こんな婚約者で」


最初聞かされた時は、

有頂天になった者だが後から

『才のない私でいいのか

 幸せにできるのか

 彼女にはもっといい相手がいるのではないか…だがわたしは!!』と

様々な不安と葛藤が襲いかかってきた。

 

そんな私を君は、優しく抱きしめてくれた。


「大丈夫…大丈夫です

 貴方は、決して落ちこぼれではありません

 だって貴方は、才がないと言われても

 努力し続けているではありませんか

 私は、そんな貴方の事を尊敬し

 お慕いしております」

「…高春殿」

「高春とお呼び下さい」

「高春」

「…はい」


ああ何と素晴らしい女性なのだ

私には勿体無い…だから…




「子敬様」

「何故ここに…それにその服装は?」

「何故?何も言わずに幽州に帰ろうとした

 貴方に会いに来たのです」

「それは…貴方に関係ありません」


私は、断腸の思いで高春を拒絶して

通り抜ける。


「いえ関係あります、私は貴方の婚約ッ」

「違う!!…もう違う貴方とは婚約を結んでいない」


数ヶ月前、父と長兄が相次いで亡くなった

死因は病死だと言われているが

本当のところはわからない

だが事実として父と長兄という大黒柱を失い

地盤もない兗州では私達一族は、

生きる事はできないと判断して故郷である

幽州に移る事になった。


当然そんな状態の私と政略結婚などする必要もなく高家から、婚約破棄を告げられた。


「いえそれは、両親が私を無視して勝手に決めた事です。私は認めていません」

「貴方が認めてなかろうと

 婚約は解消「してません」ッいいかげんに!?」


振り返って見たものは、

涙を流しながらこちらを見る高春の姿だった。


子敬は、視線を落としポツリと呟く。


「…私は、父や長兄とは違い

 仕官もできてない男だ」

「構いません」

「故郷に帰ったとて一族を養わなければ

 いけませんし父達が作った借金がある為

 先祖代々の土地も借金の方に取られ

 日常生活も困窮するでしょう」

「構いません」

「貴方に盛大な結婚式すらあげさせられない」

「構いません」

「私はッ!!

 …あなたを幸せに出来る自信がないのだ!!」


拳を強く握り締る子敬を

高春が優しく抱きしめる。


「構いません不幸になろうとも

 貴方といられるなら」

      




「…ここが私達の家」


古びたの小さな家を高春と共に見る。


「ああ元々の屋敷は、

 借金の方に売り渡したし

 先祖代々の土地は、

 義姉と劉備、そして弟達に渡したから

 私に残っているのはこの家と小さな農村だけだ」


高春を結局説得できずに

幽州まで連れてきてしまったが

やはりこんな所に彼女を住まわせる訳にはいかないだろう…


「なぁ…高春やはり」

「さぁ中に入りましょう!!」


子敬の言葉を遮るように高春が家の中に入る。

子敬も後を追うように家の中に入ると

ほとんど使用されてなかった為か

質素で少し埃臭さを感じた。


「高春?どこ行ったんだ?」


周りを見渡すが高春の姿が見えない。


「もしかして奥に行ったのか?」


子敬が家の奥に向かうと

裏手に繋がる所で高春が立っていた。


「どうたんだ高春?」


「…これ」


そうして高春が指差した場所を見ると

そこには、美しい花を咲かせる

一本の桃の木があった。


「ああこれは、理由はわからないが

 我が家が持っていた

 桃園から移した物らしいよ」


「そうなんですね…綺麗」


その時風が吹き桃の花が散り

一つの花びらが高春の頭につく。


子敬がそれを優しく取ると高春がニコリと笑う。


「今は、あれですけど

 生活が安定するようになったら

 この木を中心にここを綺麗な庭に整えませんか?」

「…あぁそれもいいな」

「ありがとうございます

「ッ!?…高春、君を必ず幸せにしてみせるから!!」

「…はい共に歩んで幸せになりましょう」


そう言って二人は、抱きしめあった。

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