第46話 取引と修羅場

「それで大丈夫だ」


「分かりましたそれでは、

 これで取引成立という事で」


劉良は、取引の内容をつらつらと

書いた後筆を置く。


「叔父上」

「ん?どうした」


侍女からお茶をもらい飲んでいた

叔父の元起がこちらを見る。


「本当にこの取引内容でいいんですか?」


木簡に書かれている取引内容を

もう一度見直してみるが

あまりにもこちらに都合のいい条件で

困惑する。


「あぁ大丈夫だ、

 こちらとしてもこの不安定な

 時期に他州に向かう

 商団の護衛をそちらから

 出してもらえるのだ

 これだけ譲歩したって

 こちらとしても利益がある」

 

確かにこちらから荘園で鍛えた兵を

護衛に貸し出す事にしたが

それでも良すぎる事から少し裏を疑ってしまう。


「裏があるとか考えているだろうが

 そんなものはない、

 まぁ強いて言うならその商団に別の商人も

 同行させてくれたら嬉しいが」


「いやおもっきり裏があるじゃないですか」


「まぁ、これはそちらが良ければと言う話だ

 これが受け入れられなくてもこの条件は変わらん」


「それはありがたいですが

 なぜわざわざ他の商人を?」


劉良が聞くと元起は、真剣な顔つきになり

「一言で言うと幽州の為だ」と語った。


叔父上によると

この冬支度の時期の商売は、

他の時期とは違い少し特殊で

幽州の冬を乗り越える為に、

幽州の商人が連携して

冀州の商人に食料や資材を集めてもらい

それを販売していたらしい。


しかし今回の件で幽州の多くの商人が

潰れた事により幽州に来るはずだった物資が

冀州に大量に残っており

このままでは、冀州の商人に

損害を与える事になってしまい

そんなことが起きてしまえば

幽州の商人の信用が地に落ち

来年からの取引に多大なる影響を及ぼし

そしてそれは、幽州の危機でもある。


「だから今残っている商人達が頑張って

 冀州に買い付けに向かってるが

 人は足りないわ道中が危険すぎるわで

 上手くいっていない」


「そんな事が」


「意外だったか?

 まぁそう思うのも仕方ない

 基本的に商人は、

 財を貯める事にしか興味がない

 だけど我々も幽州に生きるものだ

 幽州の為に動きたいのは人として当然だろう」


「…叔父上」


叔父上の言葉に感銘を受ける。


「まぁこれ以上幽州が荒れたら

 おちおち夜遊びもできなくなるからな!!ハッハッハ」

「…叔父上」


劉良は、呆れたような目線を向ける。


「ふっ…まぁ冗談だ冗談」

「…次叔母上にあったら伝えときます」

「いややめて!?」

 

叔父の言葉を無視して

侍女に荘園の私兵を管理している

高順叔父上を呼ぶように伝える。


「他の商人を呼ぶ件

 母上に確認を取る必要がありますが

 私としては了承しました

 後は、商団につける護衛の数など細かい所を擦り合わせたいのですがいいですか?」


「ゴホン…ああそれと後日商人達の会合があるから人を出してくれ」

「分かりました

 それでは、担当の者が来るまで

 少し時間がありますので釈明をききましょうか?」

「へ?」


劉良は、机の端に木簡を置き

元起を冷たく睨みつける。


「えっ?あっいや夜遊びは冗談」

「いえそれではなく

 です」

「あ〜」


元起は、視線を横にずらす。


「いやそれは…いい機会だと思ったのだ」


「いい機会ですか?

 自分が慎重に事を進めていたのにぶち壊して」


父と職場も一緒と言う事もあり

慎重に母上に父の事を伝えていて

ここ最近やっと父と会ってもいいと

母上が思い始めていた矢先

こんな奇襲のような事をして

台無しにした事を劉良は、怒っていた。


「えっそんな事してたの?」


「ええ、そうお願いしたのは、

 叔父上のはずですが?」


「いやそうだが本当に動いてくれていたとは…ってそれなら連絡入れてくれても」


「それで繋がってる事に母上が気づいたらどうします。そう言うのは鋭いんですから」


「う…」


「失礼します」


元起叔父上が何も言い返せず唸っていると

母上の侍女である春蘭が部屋に入って来た。


「春蘭どうしたの?」

「奥様からこちらの

 様子を伺ってくるようにと」

「そうこちらは、

 大まかな話し合いは終わったよ

 後は、微調整かな」


そう言って叔父上に視線を向けると

叔父上も同意する。


「それでそちらはどう言う感じ?」


母上と父上の様子を春蘭に聞くと

春蘭は、ニコリと笑った後一言


「修羅場です」


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