第44話 財タクの成れの果て

「ふぅ…これを田豊殿に」


「了解しました」


「……ふぅ」


劉良は、使用人が部屋を出て行ったのを見て

深く息を吐く。


屯田所が閉鎖されて数日が経ち

劉良は、荘園に戻っていた。


「お疲れのようだね

 荘園に戻ったらゆっくりすると思ったら

 逆に忙しくして」

「閉鎖されたとは言え

 屯田村は、存在してるしそこに

 民が住んでいるからその手当をしないと

 まぁそれも大体おわったから

 後は荘園の問題だけ」

「そんな友に悪い知らせだ」


そう言って呉範から差し出された

木簡を受け取り中を見る。


…やっぱりダメか…

そこに書かれていた

商会からのお断りの文字に溜息をつく。


その原因はわかっている

ここ数日の間幽州内の有力な商家が

いくつも軍に潰されている事だ。

潰される理由は、様々だが

大元は、屯田所の件に行き着く。


そしてそんな事があれば当然

幽州内は、物流が滞り混乱に陥り

その余波がここに来ている。


ただそんなのを承知で劉良は、

商会に取引を持ちかけて物資を集めなければいけなかった。

何故ならあと少しで冬になるからだ。


「今は、どのくらい集まっているんだい?」

「去年と同じ位の物資はある、

 だからうちだけ考えると心配ないけど

 周りの豪族から支援の要請が来てるから

 その分が足りない」


例年とは違い

元々進んでいた急進派穏健派につぐ

第三派閥成立を目指す流れの影響で

周りの豪族をまとめていた我が家が

流通の停滞によって困っている

豪族達を支援しなければならなくなった。


「そう言えば友の叔父上は、

 商人ではなかったか?」


元起叔父上か、

確かにあの商会は今回の件に

関わっていたが軍部に協力していた為

軍の粛清からは逃れられていた。


「あぁそうだけど 忙しいだろうし

 今まで取引をしてなかったからな」

 

あそこは、粛清から逃れられたとは言え

軍に警戒されてるだろうし

潰れた商会が多い中で無傷の商会なのだから

注文が殺到して今は大変だろう。

それに、今まで取引をしてこなかったのにも

理由があったのだろう。


「しかしそんな事も言ってられないだろう

 このままだとすぐに冬が来るぞ」


「それは…そうだな母上に相談してみるか」


劉良は、呉範と共に立ち上がり部屋を出る。


「しかし豪族達は、

 何故備えをしてなかったのだ?

 普通余裕あるように貯蔵するだろ」


「それは、君が豊かな揚州出身だから

 言える事だろう

 呉範、君が思うより何倍も幽州は、

 貧しく厳しいんだ」


北方に位置する幽州は、

冬が来ると雪が深く降り積もる。

その為薪や毛皮など冬に向けた用意が

必要になるがその出費がなかなかに痛い。


その為これは、我が家はしないが

作物などを育てる農家や豪族は、

冬支度で売り買いが高くなるこの時期に

一度最低限を残して貯蓄を売り払う

その後、その売り上げを使って

商人が他州から安く仕入れて来た物や

軍の入れ替え貯蓄を安く買って貯蓄とし

その残った差額で他の資材を買うと言う方法を取っていた。


「つまりその大事な取引をする

 商人が軒並みいなくなった為困っていると」


「他にも軍の入れ替え貯蓄は、

 屯田村に分配されたから

 下に流れる量が少ないし

 外からもなかなか入ってこない上

 貯蓄を売りに出したはいいが

 売り上げが商人から払われる前に

 商人が潰されて途方に暮れている所もあるらしいよ」


「それは、何と言えばいいのか

 軍に自分の金だから返してくれとも言えないだろう」


「まぁそう言う事でどこも大変なんだ

 呉範理解した?」


呉範がなんとも言えない表情になり

劉良は、それを横目に見ながら苦笑する。

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