第43話 軍部、商人を攻撃す (第三者視点)

「それでは」

「はい」


張世平は、蘇双と共に杯を掲げ酒を飲む。


「…ふぅ、これは美味ですな〜

 もしや噂の?」


「えぇ、宴が開けない代わりと

 言ってはなんですが」


世平は、そう言いながら改めて

酒に口をつける。


この酒は、最近劉元起殿の所で販売された

お酒で現在は、人気で品薄状態が続いている。


「いや〜ここまで素晴らしい

 歓迎を受けるとは、感謝の至り」


蘇双は、そう言いながら

侍女に酒を注いでもらい上機嫌に笑う。


「何を言いますか此度の商談

 蘇双殿がいなければ成功しなかった

 本当なら宴の一つや二つ開いて差し上げたかった」

 

数日前、馬商人としての売上一年分にも

相当するほどの大規模注文が来た。


どうやら異民族との戦いに備えて

大規模な騎馬隊を新たに

作る事による注文だったらしい。


当然そんな大量の馬を短時間で集める事は、

豪商と名高い世平でも容易ではなかった

そこで同業者である蘇双に協力してもらい

こちらに友好的な異民族達からも集め

何とか注文数集めることができた。


「…そう言えば、聞きましたかな?

 屯田所の事」


「えぇ、閉鎖と聞きました

 あそこは刺史が

 後ろ盾になっていましたから

 今は、地盤作りに忙しく

 まともに動けないのでしょう」


「我々に駄々をこねるより

 媚を売っていれば私達が支援しても良かったのですがね〜」


我々商人と屯田所は、現在対立する立場にある。

その発端は、とある商人が

屯田所に値上げ交渉した事で

そこから自分も自分もと

商人達が値上げを要求し始めて

最終的には、商人達が連携して屯田所に要求する事になった。


「元々刺史の肝入りの政策と言う事で

 価格を抑えめに販売していましたのを

 元に戻したいだけなのですがね」


「ふっまぁ元の価格と言うのが

商人から見れば暴利なのだがね」


「それは、辺境ですし

 相場を知らないのが悪いのですよ」


「それはそうだ」


二人は、笑い合い酒を飲み交わす。


「……これで出世の道は、

 閉ざされましたか?」


蘇双がポツリと呟く。


「…まだでしょう

 確かに此度の事失態となるでしょうが

 劉虞が目にかけ穏健派が後ろ盾になっている限りまだ出世の道は、あります」


「それでは一度取引を持ちかけて

 その返答次第で…予定通りに」


「えぇ、あの者にもそう伝えておきます」


商人の領分を侵すからこうなるのだ

…まぁあの牧場が手に入るなら悪くないか。


「ん?…これ酒を持ってこないか」


蘇双のお酒が切れていることに気づき

侍女に指示を出す。


いつもはこんなに飲まれないのに

今日は、よく飲まれる。


「いや〜これはすいません

 いつもはこんなに飲まないのですが、

 このお酒は美味しくて」


「はっはっそれは、準備した甲斐がありました…ん?」


張世平は、外が騒がしい事に気づき

眉をひそめる。


「ご主人様!!」


「何だ騒がしい…どうしたと言うのだ?」


「しゅッ襲撃です!!早くお逃げを!!」


「はっ?何を」


突然部屋の中に駆け込んで来た使用人が訳のわからぬ事を言っている。

襲撃?賊?いや虞県の街中だぞここは!!


「とっとにかく逃げましょう世平殿」


「そっそうですな」


二人は、使用人の案内で裏門に向かう。


『おやおや何処かにお出かけですか?』


「貴方様は…どうかお助けください!!」


蘇双がそう言って縋り付くのは、

軍部の人間で先日取引を担当した者だった。


「助ける?」

「ぞっ賊が屋敷内に」


…おかしい、何故この者がここにいる?

それにその姿は…まさか…。


「…賊ね…馬鹿が」


そう言って軍部の男が蘇双を蹴り飛ばす。


「グフッ…なっ何を!?」


「今ここに踏み込んでいる兵士は、

 我が軍の者だ」


「…へ?」


男は、木簡を取り出して読み上げる。


「張世平!!蘇双!!

 その方ら国家反逆の国賊なりて

 財産没収、身柄の確保の命が下された

 大人しく捕まれ!!」


「国家反逆?そっそんな…馬鹿な」


呆然とする張世平とあり得ないと叫ぶ蘇双を

兵達が取り押さえる。


「世平…蘇双お前たち

 いや商人共、お前達はやりすぎたのだ」


「我々は…」


反論しようとする蘇双の髪を男が握り上げる。


「黙れ…我々は、

 国を守る為に前線で戦っている

 兵達に安定的に物資を送る為

 お前達、商人の横暴に

 目をつむっていた

 …だがなそれも終わりだ

 あまり軍を舐めるなよ」


そう言って、二人を連行するように命令を下す。


「こんな事が許されると思っているのか!!」


張世平がそう叫んだが

男は、それに答えることはなく

屋敷の中に入り兵達に命令を下す。


「諸君ここにある財は、

 国を守る我々から不当に奪ったものである

 故に、一つ残らず探し出し奪い返すのだ!!」


「「「おう」」」


その返事と共に兵達は、屋敷の中に散らばっていく。



この日を皮切りに商人達の元に兵が送られ

その結果多くの血が流れ

兵が去った商人達の屋敷には、

金目のものは、一切残っていなかった。

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