第42話 問題発生

「そうか無事帰られたか」


劉虞急病の知らせが入り数日後

慌しく動き回っていた劉良だったが

何とか落ち着きを取り戻し

今は、屯田所で田豊と会話していた。


「はい、この後は故郷でゆっくり療養するそうです」


「しかし、劉虞様も無念であろうな

 こんな形で刺史を降りられるとは」


「まことに」


劉虞様は、一時期は危険な状態だったが

医者の献身的な治療により

何とか回復したらしい。


ただ、やはり本調子ではなく

医者からも刺史の責務に耐えられないとの事で刺史の職責から降りて、

故郷の冀州に帰る事となったらしい。


「今帰ったよ」

 

声の方を振り向くと

疲れた様子の沮授殿が部屋に入ってくる。


「どうだった?」


「今帰ってきた人間に

 労いの言葉の一つでも?

 …ってわかったからそう睨むなよ」


沮授は、二つの木簡を差し出し

「軍部、民部両方から

 から屯田所を守る事を

 約束させたぞ、そしてこれがその条件だ」


田豊は、それを一通り見た後

劉良に手渡す。


そこに書かれていた条件は、

両方とも予想していたよりも優しいものだった。


「これは?」


「そこに書いている通りさ

 屯田制の旨みを感じた今は、

 両方とも現状維持がいいそうだ

 それに今は、それどころじゃないしな」


確かに突然の刺史の退任によって

民部は、後任の刺史が来るまで

幽州を回さないといけないし、


軍部は、今まで刺史のおかげで

大人しくしていた異民族が再び動き出す

可能性がある為

その対策に忙しいのだろう。


「そうか…ならもう一つの件は」


「実はな…そっちの方に問題が起きた」


「何?」


田豊は、眉間に皺を寄せる。

もう一つ件とは、商人との間に起きている

値上げ問題だろう。


「軍部に協力できないと言われたか?」


今回の件、

軍部が中心に動く事になっていた為

こちらは、積極的に動けていなかった。

それが今、協力できないとなると

こんな事態で仕方がないとはいえ

とても困る事になるが…


沮授殿の様子を見るとどうやらそうではない様だ。


「その逆、明日にでも部隊を動かすと」


「は…何を言っている?刺史がいない

 この状況で?…まさか悪い冗談だ」


「冗談だったらよかったんだけどね〜」


「ふざけるなッ!!」


田豊は、ドンッと机を叩き怒号を部屋に響かせる。


「国防の為ならいざ知らず

 刺史の命令なしに

 軍を動かしていいわけないだろ!!

 州府の上層部は何してる!?」


「見て見ぬふりするらしい」


「なっ…んだと?」


田豊は、その言葉に頭を抱える。


それはそうだろう

北方の国防を司る幽州の州府が

軍と言う国家最高の武力集団の暴走を

見過ごすということなど

は、あってはならない事だ。


だが幽州に生まれ育った

劉良には、州府の行動が理解できた。


「仕方ありません」


「…劉良…今何と言った?」


「仕方ないと言ったのです

 この幽州は、幽州軍…いやもっと

 正確に言うと豪族の支持がなければ

 政治は、回せないのです。

 そしてその豪族達が忌み嫌っているのが

 商人達です」


「だからと言って見過ごすなど

 許される事ではないだろう!!」


「許されるんですよこの幽州では」


毎年の様に攻めてくる異民族達

そのほとんどが機動力のある騎兵であり

少数で散発的な事も多く

軍だけでは、手が回らない。


そこで活躍するのが豪族達だ

私兵を持ち一度異民族の襲撃があれば

豪族達は、連携し村々を守ってきた。


その上戦いによって人材が失われ続ける軍に

一族の者を派遣してした支えしている背景もある。


そんな事もあり幽州での豪族の地位は、

他の州に比べてとても高く

州府や軍も忖度せざるを得ない。


それに今回の商人の問題は、

異民族から国を守る為に必要な物資を

商人達に足元を見られて

高く買わされ続けたと言う怒りが

軍や豪族そして州府の根底にある為に

州府も見て見ぬふりをするのだろう。


「そんな話が!!」

「はいはい二人とも落ち着け

 ここで言い合っても仕方ないだろ?」

「しかし」

「田豊それよりも…するべき事があるんじゃないか?」


沮授が田豊を落ち着かせる。


「ッ…わかってる!!

 これより屯田所は、一時閉鎖する!!

 沮授!!組織内に伝達後

 主要な者を集めろ

 劉良は、屯田村各所に

 厳戒態勢を取らせる様に伝令を送れ!!」


「わかった」

「はっ!!」


劉良は、拱手した後沮授と共に部屋を出て行こうとした時後ろから田豊が声をかけられる。


「…私は、納得したわけではないからな」


「こちらも最初から納得されると思っていません」


劉良は、そう言って部屋から出て行った。

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