第39話 仲直りのきっかけ

「いや〜しかしほんと久しぶりだな

 元気にしていたか?」


そこにいたのは、

筋肉質で商人と言うより何処かの武人に見える叔父の劉元起だった。


「はいお久しぶり振りです叔父上」


「叔父上でいいのか?公務だろう」


叔父上が、ニヤニヤとこちらを見る

どうやらさっきの会話を部屋の外から聞いていたらしい。


「叔父上は、

 今回交渉相手ですから叔父上と呼ばせていただきます」


「はっ…身内だからと手を緩めると

 思ってるのか?甘く見られた物だな

 まぁそれじゃ交渉を始めようか」


そう言って叔父上は、

雰囲気をガラリと変える

これが叔父上の商人としての顔なのだろう

…ただ。


「分かりました…ではよろしくお願いします」

「いやお前がしないのかい!!」

 

座ろうとした叔父上が綺麗にずっこける

なかなか叔父上も芸達者な物だ。


「はい、私は今回補佐の立場ですので

 物事を決める権限は、与えられておりません」


「何だ楽しみにしてたのに」


叔父上は、肩透かしを食らったようで

残念そうにしていた。


「俺じゃ不満か?」

「だって子敬兄とは、いつもしてるし

 それに昨日も会ってるし

 その時話してくれたら良かったじゃん」


なるほど父上と叔父上は、

昨日も会っていたようだ。


「すまん、屯田所長官補佐沮授様から

 商人との交渉は、劉良と共にいる時だけと

 命令されているのだ」


「何だそりゃつまり劉良は、監視か?」

 

「補佐です。それよりも先ほどの言葉の事を聞きたいのですが」


「さっき?…ああ情報を軍に渡した事か?」


劉良は、頷く。

今回の件が軍に漏れたのは、

商人の誰かが漏らしたものだと考えてはいたが、まさかそれが叔父だったとは…


「長年できなかった

 軍との取引を結んだ矢先に

 それを御破算にしたくないだろ」


「それなら何故商人側にいるのですか?」


劉良の質問に劉元起は頭をかきながら、

「軍に頼まれたと言う事もあるし

 今抜けるとこの幽州で商売出来なくなる

 それに…いやまぁわかるだろ」

と同意を促してくる。


確かに今回関わっている商人達を見ると

簡単にこの件から抜けられるほど甘くないと思う。


「なるほど叔父上が商人側にいる理由は、

 分かりました。」

「そうかなら交渉に移ろうか子敬兄?」

「ああわかった」


         ・

         ・

         ・


「劉良」


交渉が終わり帰ろうとした所で叔父に呼び止められる。


「はいどうしました?」


振り返ると叔父上が

ちょいちょいと近くに来る様に手を動かす。


劉良が近くによると

元起が肩を組み小声で話しかける。


「劉良…子敬兄の事…まだ怒ってるか?」


「………」


「いや…すまないきゅ「怒ってませんよ」」


「えっ?」


「自分は、怒っていません」


元々父上が劉備贔屓な事はわかっていたし

あの時は刺史訪問など心に負担がかかっていた状態で劉備を連れてきたから

過剰に反応しただけで正直父上には、

怒っていないただ気まずいだけでそれよりも


「母上はわかりませんが」


「ああ高春姉上か…

 この一年…こちらから何度か話し合いの

 場を設けようとしていたんだが

 うまくいかなくてな」


あの時の母上の怒りは相当なものだった。

一つ対応を間違えると首が飛ぶ状態で

夫は来ず、来たと思えば劉備を連れてきて

刺史に紹介しようとする思惑が透けて見え

自分達家族よりも劉備を優先した事に。


その事から仲直りするのは、難しいと思っている。

…ただ荘園に移ってから

夜中母上の部屋から何度も啜り泣く声を聞いていた自分からすると仲直りして欲しいとも思っている。


「なぁ劉良よ」


「…わかっています、

 ただこの事は慎重に進めたいと思います」


「すまない、大人たちが不甲斐ないばかりに」


「気にしないでください

 それよりも叔父上も気をつけてください

 うちの二の舞にならない様に」


「…ああ気をつける」


元起叔父上の奥さんつまり叔母上は、

母上と同じぐらい劉備嫌いなのだから…


劉良は、頭を下げて子敬のところに

歩いていくこれからの事を考えながら。

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