第35話 人より人であれ

「心の友よ、それじゃここで」


「あぁ呉範それじゃ」


劉良は、呉範とわかれ政庁へ向かう。


「若君、呉範殿はどちらに?」


護衛の兵が質問してくる。


「最近できた友人の所に行くらしいよ」


呉範は、最近ちょくちょくその友人に会いに行っているらしい。


劉良は、その友人の名前を聞いた事があるが

はぐらかされていた。

         ・

         ・

         ・

「劉良様おはようございます」


仕事場である屯田所に着いた劉良は、

ちょうど出仕してきた部下から挨拶をうける。


「おはようそう言えば先日の件何だけど…」

「あっ…それは」


劉良の今の生活は、

月に半分は荘園にそして残り半分は、

琢県に新しく買った屋敷に住んでいた。


この屋敷は、元々住んでいた屋敷に

父が住んでいる事から

母が別で用意した。


「そう言えば今日でしたね

 琢県からの追加増員」


あぁ公孫瓚様が言っていた件か


「何でこの時期なんでしょうね

 もう少し早ければ良かったのに」


「それは、一度失敗したから

 人材を送るのに万全を期したんだと思うよ」


人材派遣が一度失敗したと言うのは、

この屯田所を開くにあたって

琢郡各所の役所から人材が集めたのだが


その者達の大半があまり能力が高くなく

刺史に名を売りたいやら

新たな利権から甘い汁を吸いたいやら

考えていた者で

それにキレた田豊殿が見所のある者達以外を

名簿にまとめ刺史に提出し首にすると言う

騒ぎとなった。


「あの時は、凄かったですね

 首にされた者達が親族総出で

 ここに乗り込んで来たり」


確かにあの時は凄かったな

最悪自分が槍を持って相手しないといけないかと思った。


まぁ結局は、県令に着任したばっかりの

公孫瓚様が兵を連れてきて

その者達を捕まえて罰を与えた事で鎮静化したが。


「しかし、良かったですよ

 田豊様があの者達を首にして、

 もし首にしていなかったら

 今頃…おお怖っ」


そう言って、部下は頭を下げて自分の部屋に向かって行った。


確かにもしあの者達を対処せず

屯田所を開設したとなれば

仕事量が増えるだろうし

最悪流民達が反乱を

起こしていたかもしれない

まぁその前に過労死しそうだけど。


「まぁそれを田豊様達が

 見逃すはずはないけどね」


そう言って最近与えられた

自分の執務室に入る。


「いや〜やっぱり自分の執務室

 もらって良かったな

 資料とかも自由に配置できるから」


「それで木簡の山を作られても困るけどね」


声をかけられ後ろを見ると沮授が立っていた。


「おはようございます

 今日は、早いですね」


「まぁね、今日ほら新しい人来るからさぁ

 挨拶しとかないと」


ああ…挨拶と言う名の選別か…

沮授殿は、社交的で柔軟な感じで

寡黙で厳しい田豊殿と比較され

優しい感じを持たれるが、


実際は、選り好みが激しく

使えない人材だと判断されると

知らず知らずのうちに閑職に追い込まれたり

最悪、策の生贄にしたりする人だ。


そんな事を前世で嫌と言うほど見てきたので

正直沮授殿は、尊敬はできるが少し苦手だ。


「…それは、同族嫌悪だと思うよ」


「ッ!?」


「ふふ君は、感情が読みやすいね

 気をつけなさい」


劉良は、無言で頭を下げる。


「それじゃこれから田豊のところに行くよ

 そこでまとめて挨拶するらしいから」


「はい」


劉良は、少し落ち込みながら沮授の後ろを歩く。

 

「まぁ気をつける様に言ったけど

 感情が顔に出るのは、

 悪い事だとは思ってないよ

 僕たちみたいな人間は、

 少し隙を見せとかないと

 仲間にすら警戒されるからね

 

 

人よりも人であれか…

前世から沮授殿にたびたび聞かされた言葉だ。


『自分達は、

人の心を利用し冷酷な策を立てる

だからこそ人よりも人ぽく

見せないといけない

そうしなければ、敵の前に味方に殺される』

 

ふっ実際、田豊様や私は、

味方に殺されてしまったのだから

この考えは、あっていたのだろうな。


「沮授殿の考え、為になります

 今後の教訓とさせていただきます」


そんなかしこまらなくていいよと

笑いながら沮授殿は、歩いていく。


そうして二人は、田豊のいる部屋に着く。

「ご苦労様、田豊はいるかな?」

「はっ!!他にも新しくきた者達も」

「ありがとうさて、では行こうか」

「はい」


劉良は、沮授と共に部屋の中に入り目にしたのは、田豊殿と向かい合う様に立っていた。


「…父上」


一年ぶりに会った家族の姿だった。


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