第27話 天を読んだ男(前編)

「風が…泣いている」


呉範は、憂いを持った目で

空を見つめて呟く。


彼は、揚州に生まれ家業の占いを学び

暦数を修め風気を読める

一族の中でも一番優秀な占術師である。


「…なぁ呉範」


「引き裂く様に慟哭するように

 何と罪深い」


「おいったら!!」


「…何だ邪魔しないでくれ魏騰ぎとう

 今、集中してるのだ

 見てわかるだろう?」


空を見たまま親友の魏騰を注意する。


「いやそれは分かっているが

 もう連れてこられて3日だ

 そろそろ何をしているのか

 教えてくれないか?」


魏騰は、突然現れた呉範に拉致られ

山奥に連れられ謎の儀式に付き合わされ

ていた。


まぁそれは、よくある事だから

もう諦めたが3日ともなると初めての事態だ。


「…天を見ている」


「天?まぁ…見てるなずっと」


魏騰も空を見る…うん普通の夜空だ

日が落ちて周りは暗闇に落ちたが

たいまつと空に輝く星空の光で

視界は明るい。


「違う魏騰が言っているのは、

 ただの空だ…私は、天つまり

 この世界を見ているのだ」


「天な〜」

「信じないのか?」

「いやそれは無い、

 占術に関してはお前は嘘はつかない

 ただあまりにも壮大すぎてな」

「確かに、自分自身

 何が起きてるのかわからんよ

 ただこれを見て見ぬふりは出来ん」


呉範がフッと笑う。


「そうか…それほどの異常事態か」

「あぁ………!?…扇を!!」

「えっ?「早く!!」ああ!!」


呉範は、何かを察知し扇を受け取り一振りする。


その技は、呉範が作り上げ

孫権が渇望しながらも手にできず

子孫達にも伝授されなかった伝説の秘術。


「風よ!!我にその行先を見せよ!!」


呉範がそう叫ぶと一陣の風が吹き

勢いを増しながら天へと昇り広がる。


「おっおい大丈夫…か?」


占術に関して何も能力がない魏騰は、

何か凄いことが起きている事はわかるが

それ以上の事はわからず

呉範の周りであたふたする。


「…天が死んだ」

「なっ!?そんな…昊天こうてんが…」

「…違う蒼天だ」


魏騰は、その言葉を聞き

一大事ではあるのだが最悪が起こらなかった事にほっとする。


それは、どう言う事かと言うと

漢と言う国は、火徳の王朝つまり

昊天に守護されし国である。


そんな昊天が死んだと言うことになれば

即ちそれは、漢王朝の命運が尽きた事を

示すことなのだ。


「しかし、蒼天とは言え

 天が死ぬなど大事件だ

 …何があったんだ?

 この方向からして北、洛陽ではなく

 どちらかと言えば河北だが」


魏騰は、呉範の向いている方向を

確認しながらその方向を心配そうに見つめる。


「…わからないだから…占おう

 私には、それしかないのだから」

「そんな事できるのか?」

「普通なら無理だ…だが今なら」


そう言う呉範の目は、キラキラと光っていた。


(あぁ大層な事を言ってるが

 ただ占いたいだけだなこの男)


魏騰は、呉範の考えてる事がわかり

溜息をつく。


「はぁ…それで危険はないのか?」

「あると言うか危険しかない」

「やっぱりな…だが辞める気もないと」

「当然だ死んでもやる」


ハァ…この状態になった呉範は、

いくら止めたとしても無理矢理にでも行うだろうな。


「わかったなら死にそうになったら

 ぶん殴ってでも止めるから安心しろ」

「痛いの嫌なんだが」

「我慢しろ」


呉範が不貞腐れた顔をした後

姿勢を正す。


「魏騰…頼むな」

「…おう」


呉範は、バッと手を広げ天を見る。


「…風よ」


ブワッと風が湧き上がる。


「我に天を示せ」


そう言うと風が天まで舞い上がり

その後、一気に呉範に降りかかる。


「うお!?」


風に吹き飛ばされそうになりながら

魏騰は、その風の中心にいる呉範を見つめる。


…何と言う力の渦よ

少し気を抜いただけでも飲み込まれてしまいそうだ。


そう言いながら呉範は、

その力の渦の中に意識を入り込ませていく。

すると色々な情報が頭に入ってくる。


…黄巾…董卓…官渡…赤壁…孫策…

 孫権…関羽…呂蒙…占術…軍師…


「…これは私の未来か…ふっ少し読み取るだけでもこれとは、面白い」


呉範は、興奮しながら

自分の意識が乗った風を送り

何回も繰り返し様々な情報を手に入れていく

だが肝心の蒼天が死んだ理由が見つからない。


「まずいな…時間がない

 …仕方ない危険だが少し奥に…ん?」


神経を研ぎ澄まし蒼天が座している所に

意識を飛ばしていると

目の前から二つの霊魂が流れてくる。


「男が一つ、それを追いかける様に

 女の霊魂が…何故ここに?

 …興味深いが今は、

 それどころではないな」


そう言って通り抜けた瞬間

目の前から強い爆発感じた後

天からとてつもない力が込められた

塊が濁流のように迫ってくる。


「これはッまずい!!」


呉範は、逃げようと振り返ると

そこには、女の霊魂を守ろうとしている男の霊魂の姿があった。


「まさか…守ろうとしているのか

 霊魂の状態で?…フッ」


呉範は、逃げるのをやめ

霊魂を守るように濁流に、立ち向かった。


「仕方ない私がお前達を守ってやろう」


その結果呉範は、

「…あっ無理」

力の濁流に呑まれて消えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る