間話 絶望に花が咲く
カタッ…
「…旦那様」
純白の少女が愛おしそうに木簡を握り締め
軽やかにそして楽しそうに幸せを振り撒きながら廊下を歩いていた。
「うん?お嬢!!」
「えっ?本当だ!!お嬢ー!!」
ピクッ…
お嬢と呼ばれた少女董白は、
今までの雰囲気は、消え去り
不機嫌になる。
「…チッ、何かしら
「馬鹿兄弟って…お嬢」
「あら?掠奪に集中したせいで
目標を逃すという
大失態を犯したお二人さん」
そう言って睨みつけると
気まずそうに二人は、目を逸らす。
「それで何か用?」
「はっ…董卓様がおじょ…じゃなくて董白様をお呼びです」
しおらしく郭汜が要件を話す。
あぁなるほど罰で使用人の真似事をさせられてるのね。
「そうわかったわ」
「あの…お嬢」
「なに?」
「えっと…その…」
大の大人がもじもじして気持ちが悪い
…仕方ないわね。
「…ハァ…後でお祖父様にフォロー入れとくわ」
「「ありがとうございます!!」」
「礼より武功で返しなさい」
「「はっ!!」」
董白は、そのまま李傕と郭汜の二人と別れ
祖父である董卓のある場所に足を向け歩き出す。
まったく何でうちには、
頭が筋肉の奴しかいないのかしら?
「お嬢様」
「お祖父様は、中にいらっしゃる?」
「はい、いらっしゃいます。」
部屋の外に待機していた使用人に聞いた後
息を吐き気合いを入れ部屋の中に入る。
頑張るのよ私!!
「お祖父様〜!!」
董白は、できる限りの幼声で
わざとトテトテと歩き
董卓に抱きつく。
抱きついた董卓の体は、
大柄で太っているのに
硬い筋肉の鎧を着ているように感じた。
「おお白!!
お前は、いつ見ても可愛いの〜」
董卓は、その怖い顔を崩し
溺愛する孫娘の頭を撫でる。
「お祖父様こそ、カッコいいですわ」
「そうか?爺さま照れるの〜」
董白にデレデレする姿を見ると
後に漢を恐怖の
どん底に落とす男には、到底見えない。
「それでお祖父様、私に何か御用ですか?」
「おおそうだった、白よ
先日の戦でお主の部隊が
大活躍したのは覚えておるな?」
「はい!!もちろんです」
私の部隊、それは私の誕生日に合わせて
お祖父様にお願いして作ってもらった部隊。
まぁ名目上私が上だが
実際に率いるわけではなく
率いるのは華雄でその補佐に賈詡を据えている。
「部隊の長である白に褒美を与えようと思っての」
「華雄達は?」
「優しいの〜もちろん与えておる
それで褒美は、何がいい?」
「だんな「それはダメだ」
…お祖父様の嘘つき!!」
舌打ちした後董白は、抱きつくのをやめ
ふん!!と顔を背けた。
「お前が言う旦那様ってあれだろ
夢に出てきたと言うあの…」
「劉良様です」
「そうそう劉良、
そのどこの馬の骨ともわからない若造に
私のかわいい孫娘をやれるものか!!」
「どこのって、幽州琢県琢郡の豪族の嫡男
劉良様です」
お祖父様も知ってるはずなのに
もうボケ始めていらっしゃるのかしら?
まぁ後のことを考えると
ボケててもおかしくはないけれど…
「いやそれは、
知ってるがその…言葉の綾でだな」
「ではいいですね」
「いや、身分の差が…」
「身分の差?皇室の一員で
一番の出世株である劉虞様に目をかけられ
徐々に勢力を広げる豪族の息子ですよ?」
「それは…あっ!!
そっそうだ!!残念だが幽州に
根を張っている者に私の跡を継げない
いや〜残念だな〜」
お祖父様の様子はどう見ても
全然残念そうに見えない。
…まったく諦めが悪いわ
仕方ないこれだけはしたくなかったけど。
「…わかりました」
「わかってくれたか!!」
「はい…私は、あの人と
結ばれる事はないのですね」
「うっ…あっ安心しろ私が代わりに素敵な
婿を選んでやるから...十年後に...うん」
「いえ必要ありません、
私は、あの人以外に
嫁ぐつもりはありませんし
生きるつもりもありません」
董白の顔から表情を削ぎ落ち
目から光が消える。
その姿を見て董卓は、肝が冷える。
ー戦争で守るべき家族を失った姿
ー陵辱で全てを奪われた姿
ー少量の食べ物を兄弟であろうと奪い合う姿
そんな姿を沢山見てきた董卓が
見たことがないほどの絶望の闇
それを自分の一番大切な孫娘が出している。
「はっ白や...」
「…それではこれで失礼します」
董白は、一度礼をした後背を向け歩き出す。
その後ろ姿に後に魔王とも称される
董卓の心が折れた。
「わっわかった婚約を認めようだから
待つのだ!!」
このまま行かせると
可愛い孫が自分の目の前から消えるように
感じ董卓は、必死に引き留める。
「…本当ですか?」
「ああ!!色々問題があるがそこは、
私が何とかしよう!!
だからな白よ!!
…どこにも行かないでおくれ」
董卓がそう言うと董白は、振り返り
ニコリと花の様な笑顔を咲かせ
董卓に抱きつく。
「お祖父様ありがとう!!
白は、何処にも行きませんわ!!」
孫の顔に笑顔が戻りほっとする董卓の影で
董白は、目を細めた。
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