第23話 田豊と沮授

「劉良!!ここ計算が間違ってる!!」

「これは関係役所に差し戻します」

「明日までだ」

「はっ!!それでこちらですが...」

「あぁそれは…」


「…凄いな」

「あぁ」


劉良達の働く姿を見ていた者達が舌を巻く。


「お〜い、お前達遊んでると雷が落ちるぞ」


「「すっすいません沮授そじゅ様」」


執務室に入ってきた

細身の優男名は、沮授が注意すると

注意された役人達が頭を下げて部屋を出ていく。


(まぁ、気持ちもわかるがな)


沮授は、目の前で修羅場を繰り広げている

劉良とを見てそう思う。

 

「む…沮授、なぜここにいる

 お前は視察に出向いたのではなかったか?」


沮授の存在に気づいた田豊が眉間に皺を寄せ睨みつける。


「まさか」

「サボりじゃないよ、

 主な場所を見て細かいとこは部下に任せてきた」


沮授は、言葉を遮り従者にお茶を頼み座った。


「む…またか貴様、前から言ってるだろ」

「はいはい、部下に任せすぎだろ?」

「さっきから言葉を被せるな!!」


「断る、だって田豊の説教長いんだもん

 なぁ?劉良」

「ハハハ...」


劉良は、苦笑いを浮かべる。


「それにこっちも毎度言わせてもらうけど

 田豊は、一人で何でもやりすぎ

 何だよその資料の山は」


沮授は、呆れたように資料の山に見ながら

従者から受け取ったお茶を飲む。


「…これは、この役が…屯田所が

 まだ始まったばかりだからだ」


屯田所とは、幽州で始まった

屯田制を広める為に設立された部署で


刺史直属の部下として、

地域の豪族たちや役人と交渉したり

屯田に集まった民達を監督するのが仕事だ


ちなみにここ琢郡は、

冀州から人材確保の先駆けとして選ばれた

田豊殿と沮授殿で

長が田豊、補佐に沮授

そして刺史の課題として劉良がついていた。


「はぁ…だからこそ仕事を

 部下に振り分けろって話し、

 そうすれば仕事内容も部下の能力も

 まとまっていくだろう?」


「むっ…しかし…」


「あっあの〜確かに田豊殿は、仕事を

 少し溜め込みすぎかも知れませんが

 後数日すれば組織編成もちゃんとできて

 この山もなくなると思いますのでその〜」


そう劉良が田豊の擁護にまわるが

沮授は、呆れた顔を向ける。


「まぁ劉良は、そう言うよな…同類だし」


劉良そっと沮授の視線から

自分の机を隠す。


「ハァ…まったく、いいかい?

 君達は、とても優秀だ

 田豊、君は言わずもがな

 劉良は、普通に田豊の仕事量についていき

 補佐ができている。

 そんな事、長年勤めている役人でも

 できる人間は、少ないだろう」

「それは...」


前世でやってたからとは言えない。


「だから君達は、こう考える

 部下に任せるより

 自分でやった方が早くね…と」


確かに…でも早いのは、確かなのだ。


「早いだろ」


劉良が心の中で思っていた事を

田豊が言う。


「そう早い、それはわかってる自分もそうだからな」

「なら問題ないだろ」

「問題大有りだ、この沮授が予言してやる

 このままいくとお前達は、

 大量の仕事に囲まれて死ぬか

 周囲の者に妬まれ死ぬかのどっちかだ」


そんな沮授殿は大げさだなと

劉良は、思う。


確かに前世では、大量の仕事に囲まれて

何度疲労で死ぬかと思った事があったが

本当に仕事で死ぬ事はないだろう。


それに妬まれて死ぬなど…あれ?

...そう言えば毒杯を飲んで死んだ時

自分を庇おうとした者が袁煕様一人だったような…


いや!!そんなはずは!!

自分は、刑が執行されるまで牢にいたから

気づかなかっただけだ…うん。


劉良が色々な事を考えて

顔を青くしている横で


「ふんそれがどうした、

 自分の突き進んだ道だろ

 そこの結果なら一片の悔いもなしだ

 まぁその死が国のためになるなら

 なおよしだ」


と田豊が告げる。


「あぁ…うん君は、そう言う奴だ

 それで劉良は、どうだい?」

「そんな人生真っ平ごめんです!!」

「うんすごく食い気味だね」


隣にいた田豊殿は、

少し残念そうだがこの意見は、変えるつもりわない。


もし前世だったら田豊殿に同調していたかも知れないがせっかくの二度目の人生ともなれば、そんな終わりは嫌だ。


「うんうんそれじゃ『失礼します』

 …ん?どうしたんだい?」


沮授が部屋に入ってきた使用人に問いかける。

「ハッ!!県令様が用事があると使いの者を

 よこしたのですが」


県令?公孫瓚殿の事か何の用事だろう?


「ふむ、わかったすぐ行くと返事をしてくれ」

「ハッ!!それでは失礼いたしました」


部屋を出ていく使用人を見送った後

沮授がこちらを振り返り告げる。


「…残念だがさっきの話は、後にしよう

 取り敢えず行こうか…県令の元に」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る