第16話 劉虞と公孫瓚

広陽郡薊県政庁


「刺史様」


書類に目を通していた劉虞に

従事の程緒が声をかける。


「どうした、張純達がきたのか?」

「いえ…」


そう聞くが程緒の様子を見るに違うようだ…

それでは誰なのだろうか?

刺史ともなると毎日何かしらの面会があるが

今日の午前中は、張純達だけだったはず。


「それでは誰だ?」

「はっ異民族の件で公孫瓚殿が面会を求めています。」


…公孫瓚だと?

確かに国内に入り込み略奪を繰り返す

異民族の事を調べるように言ったが

わざわざ自ら報告に来るとは、

…何かあったのか?


劉虞は、程諸に呼ぶように伝えると

一人の屈強な青年が入ってくる。


「公孫瓚、刺史様に拝謁いたします」

「うむ、それで此度はどうした?」

「はっ先日の鮮卑族との戦いの件で」


数日前、我が漢との融和に不満を持っていた

鮮卑族の一部が数百の兵をつれて

国境を越えてきた。


それを見つけたのが公孫瓚で

手勢が数十騎なのにも関わらず

突撃して犠牲を出しながら撃退し

その後の鮮卑の動きを注視していた。


「鮮卑族自体は、今回の戦いの結果を受けて

 大人しく守りを固めています」

「さもあろう」


力が全ての異民族があんな負け方をすれば

他の異民族に狙われて身動きとれないだろう。


「しかし今回の件私が偶然

 見つけたからよかったものの居なければ

 異民族の侵入を見逃していたでしょう」

「その通りだな」

「刺史様は、どうなさるおつもりで?」


なるほどそれが部下ではなく本人が来た理由か…面倒な。


「見張りの兵を増員するようにした」

「それだけで足りると?」

「…何が望みだ」

「一万」

「ならん…千で手を打て」

「話になりませんね、この幽州を守る気があるのか」


公孫瓚が殺気をぶつけてくる。


「そちらこそ国境に一万も増強すれば

 異民族を刺激するとは思わんのか?

 そうなればせっかくの懐柔政策も終わり

 幽州は、再び戦争の日々に後戻りだ」


強硬派の者達は、全くもって考えが足りん

戦争の傷跡が癒えてきて豊かになろうとしているのに戦乱をまた起こす気か?


「それならどうするのです友好の為に

 民に犠牲になれと?」

「そうは言っておらん」

「言ってるのですよ、私は若輩の身では

 ありますが異民族討伐に対しては、

 誰にも負けない実力があると自負しております。」

「それは……はぁわかった

 だが三千だ、それ以上は出せん」

「はっ感謝いたします」


公孫瓚もここが落とし所だと納得したのだろう頭を下げる。

しかしこのままやられっぱなしも気に入らんな。


「ふむそれで公孫瓚、

 後回しになっている此度の功績の

 恩賞を与えたいと思うが」

「は?いえ私は金銭にてすでに貰っておりますが」

「いやいや公孫瓚よ

 其方の功績それだけでは不十分よ」


そう言って県令の印綬を渡す。


「これは…」

「公孫瓚、其方に琢郡琢県の県令を命じる」

「はっ?…はっ県令の任、拝命いたします」

「うむそして、此度の功績中央にも伝えることも約束する」

「はっありがたき幸せ」


頭を下げる公孫瓚を見てほくそ笑む

これで公孫瓚を前線から剥がすことができる

強硬派筆頭を目指しているらしいが

これで功績を立てることも難しくなろう。


まぁ公孫瓚に文官としての能力があれば別だがな。


劉虞がそう思っていると

人が入ってきて張純達が来たと報告する。


「そうかでは、すぐに会おう

 それでは公孫瓚ご苦労だった」

「はっ」


劉虞は、公孫瓚をおいて張純達の所に向かう。


その背中に向けられる視線の意味も気づかずに…

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