第6話 そこに郷土愛は、あるんか?

突然だが後漢で

役人になり出世するには、

どうすればいいのか知っているだろうか?


基本的には、

県の属吏(役人)から始まり

郡の属吏を十年ほど勤め

その後も時間をかけて出世する孝廉や


五府と呼ばれる特別な役職や

九卿、州牧、州刺史などが出来る

特別な人材登用の辟召がある。


もちろん他にも大守や県令なども一定の人事権も持っている為出世にできるが

上の二つよりかは劣る。


「故郷を見捨てた?」


「ああ!!そうだあのクソ野郎!!」


張純からドンとのしかかる様な殺気が出る。


「落ち着け張純、お嬢さんが震えているぞ」


その声に隣にいた秋季が震えていることに気づく。


「は!?すまん!!」


「いえ…こちらこそ話の腰を

 折ってしまって申し訳ございません

 一応該当する人材がいないか

 改めて確認する為に 

 私は、一旦席を外します…失礼します」


秋季は、そう言って顔を青くしながら

部屋を出て行った。


「彼女には、悪い事をしたな」


「う…後でお詫びの品を届けよう」


張純が申し訳なさそうに謝る。


「いやそこまでなさらなくても」


「いや…やらせてくれ、

 何も罪もない女性を怖がらせてしまったのだ、何もしないなど俺が気がすまん」


「まぁ張純がそう言うんだもらっておけ

 それで話しを戻すぞ

 さっき言った通りに

 私の部下の代わりの後任を選んでいて

 その者のために張純は、

 様々な便宜を図っていたんだがね」


「もしかして仕官の誘いを断られたんですか?」


「それより酷い…

 最初、劉良が言った通りに断ってきたのだ

 まぁこれは、様式美みたいなものだし

 話しを聞くと自分達は、

 まだ何も功績も立てていない者達で

 今仕官しても部下になっても

 部下達が言う事聞くのだろうか不安だと」


劉良は、その者達の考えが理解できた。


確かに自分も前世の時

袁煕様の補佐で幽州を統治した時

上役に当たる自分に対して

功績がないくせに急に上役になったと

足を引っ張ろうと反抗する者達が一定数いた。


その者もそれを危惧したのだろう…


「まぁその者達の考えも理解できたので

 私と張純も刺史に頭を下げ辟召をしてもらえる事になった」


なるほど…一郡の大守が任命したと

言うよりもこの幽州を統括する

刺史が任命する方が格が上がるし


幽州刺史は、人気の高い劉虞様だ

その人に辟召されたと言う事は、

その者は、とても強い後ろ盾を得た事にもなるのだが…


「それも…断ったのですね?」


「ああその上、すぐに洛陽からの誘いに

 のって幽州を出て行ったよ」


「ッ!!、それは…」


…そう言う事か…

その人物は、張純様達の好意を中央に行く為の踏み台にしたのだろう。


張純様達からの便宜を利用しつつ名声を高めて中央からの誘いを手に入れ

ただ何もなしに中央に行ったとしても

存在感が出せないからと

仕官の話しを断り

刺史からの辟召をさせる様に誘導してそれを断り中央に出仕する。


名声高い劉虞刺史から

誘われるほどの有能な人物として…


「お二人や刺史の顔を潰したのです

 何かけじめは、つけさせたのですよね?」


「いやしてないし出来ないさ」


劉良は、怪訝な顔をする

その顔に張挙は、苦笑いをして答える。


「ふっ劉良まだ未熟だな

 考えてみろ報復などしたら

 仕官を断っただけで報復する

 器の小さい男達と言われ

 有能な人材が来る事は無くなるだろう」


「事情を説明すれば」


「そんな事しても無駄だとわかるだろう

 真実など、どうでもいいのだ足を引っ張ろうとする者達にとっては

 だから私達は、応援していると言う態度を

 とって送り出さなければいけないのだ」

 

「…しかし報復などけじめをつけないと」


「だから私達は、ここに来たのだ」


まったくなんて悪辣な

けじめをつけさせれば政敵に足元を掬われ

けじめをつけなければ人を集めようとしても後に続けと第二第三の

馬鹿共が出て来るだろう。


「ハァ…あの者が熱く語っていた

 故郷を守りたい!!発展させたい!!

 と言う言葉は…何だったんだろうな…」


そう悲しそうに顔を歪め深い溜息をつく

張純に劉良は、何も言えなかった。

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