間話・傍観者 【簡雍視点】
「ここにいたのか」
酒場で酒を飲んでると
親友の劉備が話しかけて来た。
「おお玄徳、どうしたんだ?
座れほら」
「ああ」
劉備に座る様に促しお酒を注ぐ。
「それで呼び出してどうした」
「あの件は、どうなった?」
劉備は、周りを気にしながら話す。
「ああ…ちゃんと流したぜ
一族の人間が劉備を殺そうとしているってな」
「そうか、手間取らせたな」
劉備が盃をあおる。
「しかし、噂を流すだけで良かったのか?
あの感じすぐにでも殺しに来そうだったが」
「大丈夫だ…、一族殺しなんて物を
子供に合わせたくないだろう」
「なるほど両親か」
相槌を打ちつつ簡雍は、
そんな簡単な話じゃなさそうだが
と思ったが口には出さない。
「しかし…叔母上も当てが外れたな」
「ん?」
「私を殺し一族の長の座を
息子に与えたかったのだろうが
その息子が暴走するなどとは、
思っていなかっただろう」
「そんな人とは、思えなかったが」
劉備がふっと笑う。
「君は、人が良すぎる…
叔母は、夫を支えず一族の長たる
私も尊重せず荘園を我が物として
金稼ぎに奔走するような人間だ」
劉備が言う様に高春殿は、
女の身でありながら荘園を管理し富を築いている。
私は、素晴らしいと思うが
目の前の劉備の様にその事を侮蔑する
人間もいる。
その恩恵を劉備とて受けているのにな。
「それならやはり仕官した方が
いいんじゃないか?
公孫瓚殿から誘われているのだろ?」
仕官して官僚になって仕舞えば
そう易々と手は出せないだろう。
「まだその時ではない」
「ほうそれは何故?」
劉備は、盃を置き大望を話す。
「今の漢は、腐敗している
皇帝陛下を支えるべき臣下たちは
権力闘争と富を奪う事に奔走し
民達を虐げ不正をし
天下を大いに乱している」
劉備は、憂いを帯びた顔で洛陽があるであろう方向を見る。
「そして今、徐々に虐げられた民達の怒りが
溜まってきており何かの拍子で爆発するだろう」
「何だつまり、大きな反乱でも起きるとでも?」
他の者に聞こえない様に小声で問いかけると
劉備は、自信を持って頷く。
「そして、それがおさまったとしても
第二第三の乱が起きて
天下は、大いに乱れるだろう
その時、私は立ち上がり力をつけ
腐敗した者達から陛下を救い出し
漢室復興を成し遂げ国を建て直す!!」
劉備は、立ち上がり宣言する。
「その為にも今は、
様々な人物と交友を持ち力を蓄える時だ。
だから仕官するつもりもない」
「なるほどな」
「もちろんその時は、手伝って貰うぞ」
「ああ!!勿論だこの簡雍、
玄徳お前の大望を支えよう!!」
「感謝する!!」
劉備と硬い握手をして共に盃を交わした。
「……ふっ!……ふふ」
簡雍は、酒場から去っていく劉備の背中を見ながら笑いを堪える。
「…楽しそうだな」
そんな彼に一人の青年が話しかけてくる。
「そら楽しいさ、お前は…不愉快そうだな」
青年は、軽蔑した目でこちらを見る。
「ああ刎頸の交わりを誓った男が
お前の玩具になってるのがな」
「私は、ただ友を支えているだけだぞ?」
「なら友の間違いも正すべきでは?」
「それは、面白くない」
青年は、睨みつけてくる。
…お〜怖っ!!
「おいおいそんな怒るんなよ
それにお前が言えばいいじゃないか」
「…私は、劉備とは別の道を歩むと決めた」
「そんなかっこいい事言って、
ただ劉備が距離を置きたかったんだろ?」
そう言うと青年は、図星をつかれたのだろう
顔を歪ませる。
まぁ、青年…いや
あの男は、理想主義者だ
大きな大望を胸に秘め
その人徳と生き様で様々な者を魅了する男で
ただ逆に見れば現実を直視せず
夢に酔いしれ周りの事など
ただの踏み台だとしか思っていない男
それが劉備だ。
「お前は…離れないのか?」
「離れるわけないじゃん!!
こんな面白い男の元を」
劉備は、今はまだ力を溜めているが
一度天下に羽ばたけば面白くなる。
あの性格だ様々苦難が劉備を襲い
何度も叩きつけるだろうし
馬鹿にされるだろう。
それを耐えて耐えてその姿に魅了された者達と共に犠牲を出しながらも
苦難を乗り越える。
そんな英雄譚を間近で見られるのだ
離れるなどとんでもない!!
「それが破滅の道でも?」
「上等」
牽招は、信じられんなと言って
二つの木簡を置く。
「おっ早いね」
簡雍は、うきうきで木簡を受け取る。
「まぁ明日には、引っ越しが始まるからな」
「引っ越し?どこに…」
「洛陽」
「は!?何でまた」
「楽隠先生のお供としてついていく事になった」
「…そうか…よし!!餞別だ!!」
簡雍は、ジャラジャラいっている
袋を二つ机に置く。
「いらん一つでいい」
「いーやダメだ、洛陽に住むなら
お金が必要だろ?」
牽招が尚も断ろうとするが
無理矢理袋を握らせる。
「…すまん」
「ふっいいって事よ、次会った時にでも
酒奢ってくれや」
「…ああ、必ず」
牽招は、次の用事があるらしく申し訳なそうに謝りながら去っていった。
まったく律儀な男だ嫌いじゃないぜ。
それの背中を見送った後
簡雍は、深い溜息をつく。
「っといけないけない
さぁ〜て中は何で書いてあるかな」
気を取り直して酒を飲みながら木簡を開く。
「ふむふむ、石鹸?何だそれ
もう一つは?…へぇ、後見人ね」
簡雍は、木簡を置き酒を飲み干す。
「ああ…まったく楽しませてくれるよ
この一族は」
そう言ってニヤリと笑った。
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