間話・家族 前半 【劉子敬視点】

鳥の鳴き声と風の音しか聞こえない夜

劉子敬は、部屋に一人で酒を飲んでいた。


「…ふぅ…」


もう家族が荘園に行って一年になるだろうか


あの日妻に劉備を取るか家族を取るかと

問われ私は、何も答える事が出来なかった。


そんな私に失望したのだろう

妻達は、翌日には荘園に居を移してしまった。


「お酒が無い…すまない誰かいないか!!」


外に呼びかけるが返事は帰ってこない。


「あぁそうだった今日は、

 もう下がらせてたんだったな」


…自分で取りに行くか

子敬が立ちあがろうとすると扉が開く。


「ん?…元起げんき


「よぉ子敬兄、一杯やろうぜ」


扉の方を見ると

この幽州で商人をしている弟である

劉元起が酒を持って立っていた。


「お前…また忍び込んできたのか?」


「いいや今回は、正面から堂々と来たぜ

 客もいるんでな」


「客?」


元起が呼ぶと一人の男が入ってくる。


「…まさか、劉敬か?」


「はいお久しぶりです子敬兄さん」


その男は、末弟であり遠く兗州に住んでいる

劉敬りゅうけいだった。


「あぁ…だが何故幽州にいる?

 仕事はどうした?」


「そんな話は後でいいじゃないか

 ほら先に飲もうぜ!!

 つまみも持って来たから」


そう言って元起が酒を注ぎ始めた。




「…なるほどそんなに酷いのか兗州は」


劉敬にお酒を注ぎながら聞く。


「はい幽州の様な異民族との戦いがない

 代わりに政治の腐敗が凄まじく…

 その結果治安も悪くなってます。」

 

「うちも余りにも賄賂の要求が酷くて

 あまり中央への商売は、

 しないようにしてるな」


「そうか…なら劉敬の選択は、

 よかったかもしれないな」


「はい、家族もこの選択を

 後押ししてくれました。」


弟である劉敬は、兗州の官僚だったが

その仕事を辞めてこの度家族と共に幽州に

引っ越して来たらしい。


「劉敬よ困ったことがあったら

 相談してくれどれほど力になれるかは、

 わからないがな」


「はい子敬兄さん」


「まぁ今は、子敬兄の方が大変だけどな」


「えっ?」


「元起!!」


酒をガバガバ飲む弟を注意する。


「だって事実だろ、嫁さんから

 呆れられて別居してるんだから」

 

その後、元起が劉敬に詳しい内容を話す。


「…なるほどそれは…擁護できませんね」


「…劉備を兄弟で支えていくと

 決めたじゃないか」


「確かに決めたが

 家族蔑ろにしてまでとは言ってないし

 家族の協力がなければ

 支えられる訳ないし子敬兄がした事は、

 逆に劉備の敵を使って一族の結束をバラバラにしたんだ」


元気の言葉にぐうの音も出ない。


「…ならどうすれば良かったんだ」


劉子敬は、そう項垂れながら呟く。


正直自分には、才能がない

どんなに仕事を頑張っても

上の役職に上がれず今となっては、

出世コースからも外れ

目の前の仕事を片付ける日々だ。


そんな私を妻は、文句一つ言わず

荘園の管理までしてくれて私を支えてくれた。


それがありがたくて嬉しくて

…申し訳なかった。


そして気づいてしまった

権力もこれと言った人脈もない

資産は、あるがそれも妻が稼いだものだ

そんな私は、家族の為に

何もし残してあげられないと言う事を…


だから、他力本願と言われようと

一族の中で一番期待され才覚があった

長兄の息子である劉備を

支えようと思った。

それで劉備が出世し我が一族が繁栄すれば

それは、家族にも恩恵がくると思った。


「…私は、長兄の様に有能ではないから」


私の独白を聞いて弟達は、顔を見合わせた。

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