第二十七話 母の愛

「奥方?何故反対をする?」


劉虞が困惑しながら高春を見る。


「あっもしや褒美か?」


「褒美も名声もいりません」


「では何故?」


高春は、劉良を見る。

「良の為です」


自分の為?


「何故、劉良の為なのだ?

 これほど素晴らしい政策を献策したのだ

 褒美や名声も思いのまま

 将来も約束されたものだぞ?」


「そうですね、

 私も素晴らしい政策だったと思います」


「なら」


「だがそれ故に、

 妬み嫉みそして恨みも集まるでしょう」

 

確かにそれは、予想できるが政治に生きる者としては当然の宿命だと思う。


「なるほどな…だが安心せよ

 この劉虞が劉良を守る事を誓う!!」


劉虞の言葉に周りは沸き立つ

その宣言は、劉虞が劉良の

後ろ盾になると言うものだからだ。


「…足りません」


「…なに?」


「はっ母上!?」


母上の言葉にその場が固まる。


「今…何と?」


「貴方だけでは足りぬと申したのです。」


「…ほう」


「貴様!!何と無礼な!!

 もう許せん兵らよこの女を捕らえよ!!」


劉虞の隣にいた使用人がそう叫ぶと

護衛の兵達が母上に剣を向ける。


「母上!!」


劉良は、走り出し母上を庇う様に兵達に立ち塞がる。


「あら良、守ってくれるの?」


「はぁ?当然でしょ!!

 それより母上謝って下さい!!」


「あら?それで許されると思う?」


「それでも謝るしかないでしょここは!!」


母上のあまりにものほほんとした

態度に劉良は、怒る。


「何をしてる!!早く捕まえろ!!」


くそっ武器も無いのに!!


劉良は、高春を逃す為に考えを巡らせていると劉虞が「やめよ」と言う。


「は?」

「二度は言わぬ…やめよ」

「はっ!!」


劉虞の言葉に兵士達が剣を納める。


「さすが劉良の母と

 言った所か…肝が据わっておる。

 …あいわかった後日ちゃんとした

 後見人も用意しようそれでどうだ?」


「感謝いたします、

 どうぞ劉良が献策した策おつかい下さい」


母上は、深く頭を下げる。


「うむ…さて長居し過ぎたな

 そろそろ帰るとしよう」


「それでは、お見送りを」


「わかった…劉良よまた会おう

 ちゃんと親孝行するのだぞ」


「はっ?」


「それじゃお見送りしてくるわね」


母上は、何事もなかったかの様に

劉虞刺史と共に門へと歩いていった。


「えっ…???」


劉良は、あまりにも急展開すぎて

その場に立ち尽くすしかなかった。





「劉虞様」


馬車でくつろいでいると

従事の程緒が馬車の外から声をかけてくる。


「何だ?」


「あの無礼者を許して

 本当に宜しいのでしょうか?」


無礼者…奥方の事か

劉虞は、フッと笑う。


「構わんもしあそこで捕まえてみろ

 子供が作った策欲しさに、

 母親を捕らえたとか噂され

 わしは天下の笑い者になるぞ」


「なっ!?そんな事は」


「あの奥方の堂々とした様子を見ただろ

 捕まえられるなら捕まえてみろとでも

 言っている様だったではないか

 何か手を回していたに違いない

 それに…」


「それに?」


「いや何でも無い」


程緒は、気づかなかったのだろうな

捕まえろと程緒が言った瞬間

部屋の外から恐ろしいほどの

殺気が出てた事を


もしあそこで奥方を傷つけようものなら

…殺されてたな。


劉虞は、ハハハと笑う。


「しかし、劉虞様が守ると宣言されたのに

 それに不満を言うなど」


「言ってやるな、

 あれは必死に子を守ろうとした母の愛ぞ」


「それはどう言う?」


「ふっ簡単な話よ

 わしはいつまでも幽州刺史ではない」


「あっなるほど」

 

奥方は、気づいたようだな

あのまま自分がだけが後ろ盾になっていると

幽州刺史から別の役職になり

自分が幽州を出てしまえば劉良を

守るものがいなくなると…


…ふっ…もし気づかなければ幽州を出る時

幽州いる危険性を伝えて連れていこうと思っていたのだが…上手くいかないものだな。


「しかしそうなると誰を後見人にするか…」


幽州内の有力者達を頭に浮かべる。

公孫…は強硬派か…なら…


「うむ決めた…程緒よーーに連絡を」


「了解しました」


「あっ少し待て」


程緒が馬車から離れようとするのを止める。


「はい何でしょうか?」


「いや何、故郷の母に贈り物を贈りたい

 準備を頼む」


「…はっ、それならお手紙も、

 お付けすれば喜ばれると思いますよ」


「うむわかった」


程緒は、礼をした後馬車から離れる。


「ふっ…私も親孝行しないとな」


劉虞は、そう呟いた後馬車の中で目を閉じた。

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