第二十六話 屯田制③

「おかしな事を言うものだ

 兵に先に伝えるだけで反対派を

 抑えられるなど」


劉虞が顎をさすりながら言う。


まぁそう言うだろうと劉良も思っていた。

自分自身この方法を見つけたのは偶然だった。


前世、袁煕様に仕えてこの幽州に赴任した時

私は、この屯田制を取り入れようと

有力者や幽州を支える官僚達に

根回しをしたがうまくいかない。


自分が交渉下手と言うのもあるが

新しい事への拒否感や

そんな物に自分達の予算を使わせたくない

と言うものがあったのだろう。


そして、気づけば一部を除き大半が

反対派になってしまっていた。


そんな時だ、鬱憤が溜まってたのだろう

街の酒場で泥酔してしまった私が

護衛の兵士にこの事を愚痴ってしまった

しかも最後にポロッと

『これが軌道に乗れば、

 負傷兵や遺族達も救えるのに…』と

言ってしまったらしい。


そこから数日後、

私の元に反対派の者達が不審な死を迎えていることが報告された。


もしやと秘密裏に調べて見ると

自分がぽろりと言ってしまった言葉が

兵士達に広まり反対派は、

敵だと一部の兵が暴挙に出たらしい。


その事件により私は、

言葉の力の恐ろしさと強さを思い知ったのだった。


「一つ目の提案を聞いた兵達は、

 どう思うのでしょう?」


劉良は、語りかける。


「立身出世の為、もしくは生活の為、

 それともこの国を守る為に

 …様々な理由で兵士なった者達

 この者達が共通して感じる

 …もし戦えなくなったら?

 …もし死んでしまったら家族は?

 と言う不安…それを解決するこの政策」


「…感謝するだろうな」


華雄がポツリと呟く。


「そうでしょうね

 それで華雄先生もう一度聞きます。

 本当に…反対しますか?」


「それは…」

 

当然だと口にしようとした瞬間

華雄の感が危険を鳴らす。


華雄は、突然頭の中に

後ろから信頼していた兵に刺される光景が

浮かんできた。


「それは?」


「…反対しない」


華雄は、反対できないと敗北を認めた。


「ありがとうございます」


劉良は、華雄に頭を下げる。


「素晴らしいぞ劉良!!

 ちなみに三つ目は、どんな意味が?」


劉虞がこちらを褒めながら聞いてくる。


「三つ目の信頼する武官や文官に

 身銭を切らせて支援させるは、

 二つ目の策を派閥単位に広げる為の策です」


「…なるほど、自分が信頼する者にやらせ

 兵達の人望を集め、

 敵対派閥に反対させれば

 自ずと敵対派閥は崩壊すると…」


派閥の力を支えているのは、

末端の兵士達だその者達に

そっぽ向かれたら

まともに派閥を維持できないだろう。


「この幽州で行うなら

 私としては、穏健派にその役割を

 お与えになった方がよろしいかと」


「…なるほどな、穏健派なら張純と張挙だな」


「え!?」

「ん?何か問題が?」

「いえ!?なにも」

 

劉虞から予想外の人物に出てきて驚く。

張純と張挙ってあの国に反乱を起こす

張純と張挙だよな?


「うむ決めた!!

 この屯田制、私が責任を持って

 幽州に取り入れよう!!」


劉虞が膝をパンッと叩いて宣言する。


「えっ!?あの…これ宿題で」


劉良は、劉虞の言葉に驚く。


「うむそうだったな…すまない。

 では、この劉虞が評価を言おう

 大変素晴らしい見事だった

 これは、賈詡殿達も納得だろう」


先生達も頷く。


「あっありがとうございます!!」


「うむその上でだ、

 幽州刺史としてお願いしよう

 どうかこの政策を使う許可をいただきたい」


そう言って劉虞が頭を下げる

その光景を見てその場にいる皆が固まる。


「しっ刺史様!!子供に頭を下げるなど

 おやめください!!」


「控えよ!!この劉良殿は、

 この幽州を発展させる素晴らしい策を

 献策してくださったのだ

 その者に礼をつくす事は当然であろう!!

 そこに子供だからとか関係ない」


劉虞は、苦言を呈した使用人を叱りつけ

改めて頭を下げた。


…やられた。

劉良は、その姿を見て劉虞と言う男の凄さを

思い知る。


刺史にまで上り詰めた人間が

子供に礼を尽くし頭を下げるなど

プライドがあり普通はあり得ない。


しかし目の前の劉虞は、

それを躊躇いもなく行った。


これで私は、

屯田制を使う許可を出さなければ

刺史が頭を下げたのに許可を出さなかった

愚か者の烙印をおされる為

許可するしかないし。


この話が幽州内に広まると

幽州の為に子供にまで頭を下げるのかと

劉虞の元により一層人望が集まるだろう。


…恐ろしいこれが劉虞と言う男なのか


もちろん劉良だって、

この政策を劉虞がやりたがると思っていた

だから謙遜しながら政策を渡す

対価を吊り上げていこうと考えていた。


しかし、劉虞の行動でそれはできなくなった。


…やはり自分は、交渉下手なのだろう。

 いや劉虞刺史が凄いだけか…


劉良は、素直に政策を差し出す事を決めて

返事を返そうとしたが、


「わかりました、

 どうぞこの政策おつかッ」

「お待ち下さい!!」


それに待ったをかけた人間がいたそれは…


「その政策使わせる訳にはいきません」


「…母上」

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