第二十話 登竜門 (劉虞視点)

「劉虞」


執務室で仕事をしていると

一人の男が入ってくる。


「許劭殿、戻られましたか」


劉虞は、手を止め許劭を迎え入れる。


「おう、しかし私を使うとか

 中々いないぞまぁ

 今回は、知り合いの息子だったから

 特別に引き受けたが」


「はは、すいません困ってる時に

 的確な人物が来たのでお願いしました」


劉虞は、箱を許劭に差し出す


「…確認した」

許劭は、中身を見た後箱を受け取る。


「それで如何でしたか?

 劉良と言う少年は」


私が許劭殿にお願いしたのは一人の少年の

批評だった。


「しかし詳しく聞いてなかったが

 何で劉良を見させたんだ?」


許劭殿はどうやら簡単には、

教えてくれそうにない様だ

…ハァ仕方ない。


「実はですね、

 今この幽州には凉州から

 二人の有能な人材が来てるのですよ」


「ほうお前がそう言うとは、

 気になるな…名は何と?」


「賈詡と華雄」


賈詡と華雄、

凉州からここ幽州に視察に来た文官と武官

初めて会った時からから

その能力の高さに舌を巻いていた。


しかも話してみると

この者達ここ最近見出されたと言うではないか!!


この様な有能な者達が今まで燻っていたとは…


凉州の者達なんと愚かなのだ

まったく私ならすぐにでも要職につけるのに

…それありだな。


「それで勧誘したと」

「まぁけんもほろろに断られましたがね」


「それで、劉良と何の関係が?」


許劭の態度に劉虞は、違和感を感じる。

何か劉良の事を守ろうとしてる様な…


「まぁ私としても勧誘を急ぎすぎたと

 思ったのでまずは、

 二人の事を調べたのです

 その結果二人は

 とある少年を鍛えている事が

 分かりました…それも熱心に」


「それが劉良だと?」


「ええそうです。

 気になるでしょう目をかけた二人が

 熱心に教えている少年を」


あの二人は、私が見たところ人に物を教える師となるものには、見えなかった。


その二人が少年の師となっている

これほど興味がある話はない。


「さてここまで話したのです。

 そろそろ聞かせて頂けますか?」


許劭殿は、少し躊躇った後ポツリと呟いた。


「…こいだ」


「こい?…まさか鯉の事ですか?」


「ああ短い間だったが

 滝を登っている鯉の様だと感じた」


鯉が滝を登る…登竜門か!!


登竜門とは、数年前に党錮の禁によって

処刑された李膺に関する話で


李膺は、天下に名が知られる実力者で

その李膺に認められた者は、

出世を約束されたと言う


その話しを流れの急な龍門という

河を登りきった鯉は龍になるという伝説に準えて言われ始めた言葉だ。


つまり劉良は、河を登り龍となるほどの逸材だと言う事だ。


「それは、素晴らしい逸材だ

 …はっ!!だからあの二人は、

 私に話そうとしなかったのか」


私が悔しがってると

許劭殿は、暗い顔をしていた。


「ん?どうしたのです許劭殿らしくない

 龍となれる逸材ですぞ

 いつもなら喜ぶではないですか」


「そうなんだが……なぁ劉虞殿

 …鯉は本当に龍になれるのだろうか?

 鯉は龍になれると夢見てるだけではないのか?」


突然何を言い出すのだろうか?

私は、困惑しながら返事を考える。


「それは…分かりませんただ

 龍にならずともとても厳しい河を

 登り切った鯉は、大成するでしょう」


「そうだといいが…」


「何が不安なのです?」


「私は、様々な優秀な人物を見てきたが

 大成したのは、ほんの一握り…

 殆どは、乱れた政治に呑まれてしまった」


「彼もそうなると?」


「ああ…このままではな、

 だから劉虞殿どうか少しだけでも

 少年を目に掛けてくれないだろうか」


そう言って許劭殿が頭を下げる。


「ふ…この劉虞、優秀な若者を

 見捨てる事などいたしませんよ」

 

「そうか!!感謝する」


しかし、ここまで許劭殿が目をかける少年か

…面白い。


私は、許劭殿が帰った後

善は急げと少年が住む琢郡への視察を決めた。

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