第7話  鳥獣疑牙

         ●

病院の敷地から自転車を引いて出る二人を荻窪は窓から、覗きながら電話をしていた。


「あぁ…おそらくはカウンセラーではないことはバレているな。いや態度でバラしているもんだが…カウンセラーが間違っても患者を泣かせるかよ。」


「あぁ…俺の正体までは割れてないはず。アイツの言う通り…引き続き監視を続けさせる。」


二人が視界から確認できなくなったことところで荻窪はカーテンをしめ、電話切ると、扉からコンコンとノックする音が聞こえた。


「入っていいよ…。」


荻窪がそう言うと、メガネをかけた三つ編みの看護婦がオドオドとした挙動でトレイにコーヒーを乗せ入ってきた。


「すみません…コーヒーを持ってきたんですけど…。」


「気が利くね少し散らかってるけど、そこの机に置いてる書類、適当にどかして置いといて。」


荻窪の指示通り看護婦は机の上の書類をどかしてコーヒーを置いた。


「所で…先生…今日のカンザキくんの書類なんですけど…色々記入されてないんですが…。こんなミス…貴方ホントに医師免許持ってるんですか?」


「え? いや…それは…その…」


看護婦の鋭い問い詰めに荻窪は目を泳がせながら机に置かれたコーヒーを飲んだ。刹那突然身体が重くなり、荻窪はその場に倒れ込んだ。


「がッ…重い!!なんだコレ…!!」


もがき苦しむ、荻窪を尻目に看護婦はドアの鍵を閉めた。 


振り返り荻窪を見下してほくそ笑んだあと、再び口を開いたが、その口調はさっきとはまるで別人のようになっていた。


「ミスなんてするもんじゃないよなぁ!! 本物の医者だったら!! だが安心しろよ!化けてんのはお前だけじゃねぇ!」


「俺の身体になにをした…?!」


震えながら、必死に睨んでくる荻窪を目にした看護婦は、フッとその姿を鼻で笑いニヤけながら説明した。


「魔法だよ…私の同士に『ゲルニカ』という魔法を使える者がいてねぇ 今の君の体重は十数キロ増えているってわけ。」


「魔法? そういう名前のドラッグか?」



「全く…これだから警察は嫌いなんだ…。

二十年前に起こったモノリスの発見と、数週間前の『ユグン胎神』堕落死で何も学ばなかったのか?」


見当外れな返しをされた看護婦は、がっかりした顔をしながら荻窪を嘲った。


「ありえないことなんてこの世には存在しない、こんなふうにな!」


そう言うと、看護婦はメガネを外し、自分かおをぐちゃぐちゃにこねくり始めた。すると顔は粘土のように自由に変形していきそれは次第に青年の、オガワの顔に変化した。


発導魔能スキル持ちの精霊を宿す者を宿すものは本来、遺解魔法トレスを使用は苦手なんだが…オレの精霊性質が青の事を活かしてこの魔法だけは練習したんだ。」


「バケモノめ…。 理由のわからないことを…。」


オガワは会話をしながらまた顔をぐちゃぐちゃにこねくり回し今度は、明るい桃色の頭髪が特徴的な美少年にカオを変えた。それと同時に、身体も少年のものに縮んでいった。



「俺達は長いこと共に支え合って生きてきたからな…そうすると仲間との合わせでしか効力を発揮できないスキルを精霊は発導させる。どうしても直接、スキル以外でコロしに役立つ魔術は必要となるわけだ。」


「お前達何者だ…。」


「もうわかってんだろ?」


オガワは右手の、人差し指をカマキリの鎌に変形させ、身につけていたダボダボのナース服の上方を切り裂いた。


顕になったオガワの小さな身体には胸に『青い十字形の抉れた紋章』がついており、その下の腹部のあたりには、『翼と天使の輪』のタトゥーが掘られていた。


「そう…私達は…『アルエスの旅人』だ…。」



「なッ…!!」


荻窪は、オガワの正体に驚愕した。

それは、半年前、自分たち警察組織が完全壊滅させたはずのカルト集団の名前だったのだ。 とある協力者の情報では、残党が残っていて、教祖と相打ちで殉職した神崎警部の息子を狙っている事が知らされていた。


荻窪はカウンセラーに扮し、また他の者もクラクの監視を行っていたが、それは念の為で本当に奴らが生きているなんて、信じてもいなかった。


「直にこの世界も異世界に飲まれる…。それでは、貴方も思念となって彼岸で、再開するときまで、また…。」

 

「やめろ…近づくな…オレは、まだ…

。」


オガワはシーザーハンズのように指を全て刃物に変形させ、ゆっくりと荻窪に近づいた。


 荻窪はなにをされるのか見当がついていたため、重くて動けない身体を必死に引きづって逃げようとした。 


 刹那、部屋中に鮮血が飛び散り男の断末魔がこだました。





         ✛

「アイゾウ〜 オレ何度も電話したよなァ!! どうして出ずに勝手に神崎迎えに行くんだよぉ!」


オレ達がラーメン屋の前につくと、独りのメガネを男に詰められた。 俺達の親友、『佐々木コウタ』だ。


佐々木が、キレている理由はすぐにわかった。 おそらくはアイゾウが、佐々木に何も言わず、勝手な思い付きでオレを誘いにいったことが原因だろう。証拠にアイゾウはバツが悪そうなカオをしながら俺の後ろに隠れる。


「テメェ 今日ラーメン奢りな!」


「うるせーわーたよ」


「なんでアイゾウはいつまでも懲りないんだよ!」


「オメーまで言うなよ! クラク!」


俺達はいつも通りのやり取りをしながらラーメン屋に入っていった。 だがオレはこのとき後に二人に、頭がおかしいやつだと思われるのことに怯えていた。


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     復唱魔法  鳥獣疑牙


           タイプ 蒼宿魔導




魔能発動精霊消費    ☆☆☆☆☆

クールダウン     MAX(一切なし)

損壊力/死誘力    ☆☆/☆☆

能力発動スピード  ☆☆/☆☆

耐久性/タフネス    ☆/☆



魔力が続く限り自らの身体を自由に、変えられる、蒼宿魔導の基本とされているが、使いこなすにはかなりの練度がいるため、好んで使うものは、どの世界にも極わずかである。

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