第六話 暴虐

         ✛


西暦2027年 12月 22日 金曜日


「えぇ そうです…。 確かに見えるんです。 ほら今もあなた後ろ…僕には見えてる。 『銀髪の女』が…。」


 オレの声に促されるように…荻窪先生は一瞬、後ろを振り向いた。


 荻窪先生というのは、カウンセラー、つまりは精神科医で、半年前父親がオレの眼の前で殺された事をきっかけに、週一回の面談を通して今日に至るまでずっと面倒を観てもらっている。


 ただ彼は、カウンセラーというには、聞き上手というより、お喋り好きで、何より偏屈な人だった。 


 お世辞にも天職についているとは言えない。


 そしてまた今回も何時もと変わらず、人を小馬鹿にしたようなコミカルな動きをして、オレにからかい混じりの言葉を投げてきた。


「あ~…何もいないようだけど…君のおめでたい脳内彼女はよっぽど…その…シャイみたいだな…。」


「何より…銀髪で…つのが生えてて…人より大きい…? まるでRPGゲームやファンタジーアニメに出てくる魔王様みたいだな…おまけに…。」


「君にしか見えない?… こりゃ傑作だ…プ……アハハハ」


 堪えきれない笑いとともに身体をふるわせ

荻窪先生はペンのボタンを連打し、をカチカチと鳴らした。


「クラクくん?…まぁ君の…父親がその…骨になって…君は精神的にショックを抱えているんだ。 そりゃ人は眼の前で大好きな人が殺されることに耐えられるほど頑丈じゃないからね…。」


「先生…? それならオレ、正気だよ…。」


荻窪先生は自身の言葉に割って入った、オレの返答に興味を示したのか、目を見開いて立ち上がった。


「ほう…それは面白い…なぜだ?」


「オレ…親父嫌いなんだ…。 だってアレ

正気じゃない…。」


「先生…俺の名前…クラクだよ…。 自分の名前に苦しいの『苦』の字をつける…。 親父はそういうやつだった。」


「でも、君は学業に良く励み…去年の模試の成績は学年で2位…今では1位。 習い事は主に柔道を始めとした格闘技で驚くべき成果を上げていた。 それもこれも見てみれば自分の父親さんと同じ…将来は『優秀な警察官』を目指していたからだろ?」


 オレの呟きに対して、鼻で笑うように荻窪先生は応えた。 それに対してオレは深くため息とともに言葉を返す。


「先生…俺がなんで去年学力テストの成績がずっと2位だったのに、今年から1位になったか知ってる?」


「1位だった、六道ソウスケが原因不明の失踪、行方不明になったからだよ…。」


荻窪先生は面倒くさいだかなんだか渋い顔でオレの話を聞いていたが、オレはお構いなしに話を続けた。


「それで親父は最初に誰を容疑者として疑ったか知ってる?」


「俺だよ? オレが学年テストで1位を取るためにあいつを殺して何処かに隠したって

ホントに疑ってたんだ!!」


「そんなヤツ!!死んでもショックなんて受けるはずがない!!」


オレは、気付けば涙をぼろぼろとこぼしながらうつむいていた。 その様子に焦った荻窪は強引にカウンセリングを切り上げた。


「まぁともかく…幻覚を見ている疑いがあるから…薬出しとくね…!!もういきなり気絶とか辞めてくれよ!!」


カウンセリングルームを追い出されて、受付で薬を受け取った。オレはそのままトボトボと家に帰ろうとした。


しかし、病院を出たところで、オレは声をかけられた。


「よぉ、浮かねぇ顔してんなぁ、なんか…嫌なことでもあったのか?」


「アイゾウ…ずっとここで待ってたのか?」


声の主はアイゾウだった。 アイゾウはマフラーを首から外しグルグル巻きにすると乗っていた自転車から降りて、口を開いた。


「なぁ、これから佐々木とスキガヤラーメンに行くんだけど、おまえも来ねぇか? ヤブカウンセラーの悪口聞かせろよ!」


「あぁ 相談したいこともあるしな…。 だがチャリのニケツはなしだぜ。サツは嫌いだ…。 面倒事は起こしたくねぇ。」

 


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