第四話   没落

        ●

「なんだ? なんの音だ!」


シュウは陰湿な地下室に閉じこもって、自身の車椅子を改造するために、溶接作業に勤しんでいたが。 瞬間的に起こった地面の揺れとと凄まじい轟音で、初めて作業の手を止めた。


遠くではない、なにが起こったか、知らないが見に行かなければならないと、そう思った。


「あ…。」


自身の車椅子のホイールを調節し、いざ外に出ようとしたが、ドアの前で思わず漏れた声とともにその手を止めた。


 手が震えている。 無理もない、もう十日間トイレ以外では部屋の外に出ていない。


 恐怖だ。 外に出ようとすると、動悸を伴って正体不明の恐怖が頭の中からフラッシュバックするのだ。


 シュウは暫くそうして躊躇ったが、遂にドアノブに手をかけた。 ともかく、これをなにかのきっかけにしたかったのだ。 いつまでも過去の傷を引きずる自分をシュウ自身だけは許せなかったから。


 外に出たシュウに最初に待ち受けていたものは、圧倒的な冷たさの風からくる寒さだった。


「うぅ クソ…。」


シュウはそう独り言をつぶやくと、凍える身体を抑えて、車椅子を進めた。ハンドリムは鉄でてきていた、ため冷えるのは早かった。


 それでも前に進むには、その冷たくなった鉄の輪を握るしかない。いやらしい摩擦の関係で手袋さえ許されないシュウの手はあっという間に冷気に侵略され、感覚すらも奪い去った。


轟音がなった現場に行くとそこには警察官や何かしらの特殊部隊のような学校の人が大量の人だかりを近づけないようにしていた。


 人の集いは余りにも多く、暫く録に人間を見ていない、シュウからしてみれば、急激な吐き気に襲われるほどだった。


その現場を一目見ようと人だかりを掻き分けるのは簡単なことだった。


 車椅子だったからだ。


みなそれを見て、まるで発狂したかのように驚愕していても、人としての理性を案外残している人ばかりだったため、道を開けず、身体障害を患っている人間に万が一自分が怪我させたときのことも一応は想像するに頑ない。


そうして遂に人だかりの先頭にたどり着いたシュウが見たものは、眼球を思わず潰したくなるほど、おぞましく到底信じられるものではない、モノだった。


未確認生物の死骸


体長7メートルはあるであろうそれは、体色は全身灰色で、青い血を周囲に撒き散らし

エイのヒレのような羽を四対携え、なんとも形容しがたいが、例えるならば何体生物、ナメクジのような胴体をもち、しかし人間のような手足を持っていた。


それはシュウがこれまで見たことがない生物で、当然周囲の幾人も、見たことのない生物の形だった。


シュウはポカンと口を開けて、ソレを見続けていたが、暫くすると何者かに肩を叩かれた。


「シュウ…。 お前ももう来ていたんだな…。」


 それは、シュウとクラクの共通の親友である鵜川逢造ウカワ アイゾウだった。


 「アイゾウ…ずっとここに?」


「いや…いま来たところだ…所でなんだあのバケモンは?」


「僕にもわからない…。」


 無茶苦茶な光景を前に会話する二人の声は震えていた。 しかし、シュウの方はこの状況でも少しだけ、親友と久しぶりに会えたことを心の中で喜んでいた。 


 一方でアイゾウはいつもフザケているが流石にそんな余裕はなかった。そして他の人間とは若干違う場所に視線を移してこう言った。


「んだ? アイツ…あんな格好して…ふざけてんのか?」


 その一言でシュウもアイゾウがあのバケモノとは、また違うものを見つめていることに気がついた。だが、アイゾウの視線と同じ場所に、視線を移しても、そこには影と犬の小便か染み付いた電柱しかなかった。


「アイゾウ…アイツってなに? 誰?」


シュウが恐る恐る、アイゾウに尋ねると、アイゾウは視線の先にあった電柱を指さして叫んだ。


「ホラ!! アイツだよアイツ!! あの真っ黒なコート来て!! ふざけた蝶の仮面被ってる、ロン毛の変態だよ!!」


「いや…何も居ないけど…。」


「はぁ? じゃあアレ! 俺だけ見えてる

ユーレイ的な…。」


アイゾウが驚愕して叫んでいる途中で突然シュウのスマートフォンから、着信音がなった。


「ハイ…もしもし神崎です。」


「ハイ…ハイ…ハイ…本当ですか? 今すぐ向かいます。」


シュウは電話口に返事をしていたが、その声は時と共に低くなっていった。 それは明らかにただ事ではないといった雰囲気を暗に表していた。


「シュウ…なんだ? 誰からだ?」


アイゾウが今度は恐る恐るシュウに尋ねると

歪んだ表情をアイゾウに見せ震える声で告げた。


「お兄ちゃんが…さっき…屋根裏部屋の窓から家の外に飛び出して…意識不明に…でも…飛び降りた傷は軽症で…意識がなくなった理由は『窒息』だって…。」


「いったい…どうなっている。」


アイゾウはそう呟くとシュウの車椅子を引き

急いで、人混みから夜の闇の中へ姿を消した。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  『繋ぎ』への掌握 ヴェルギリウス


           タイプ 発導魔能

         発導者  エリック B


精霊繁殖力     ☆☆☆☆☆

魔能発動精霊消費    ☆

クールダウン    ☆(11年)

損壊力/死誘力    ☆/☆☆☆☆

能力発動スピード    ☆☆(7秒)

耐久性/タフネス    MAX

発展性/進化余地    0/0 


 

・冥界を除いた、あらゆる世界と不安定に繋がる『穴』を作成できる。 


・穴の形、サイズはは発導者のエリック自身の任意。


 ・この魔能は使用するにあたって、媒塊を必要としない。


 ・死への探求のために700名以上の未成年を拉致監禁、殺害した世界的に悪名高いカルト団体 『アルエスの旅人』に所属するエリックBのスキル。 だがエリック自身は精霊と対話することも出来なければ、精霊が媒塊を創ることもない。 ただスキルのみを使用できる極めて稀有な存在である。



    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る