第十話 仮面
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「う〜ん それらしい、ものはないな〜。」
アイゾウはネットでモナリザのことを調べようとしていた、しかしどこのサイトを見てもそれらしい情報はなく、作者も、出版元、販売履歴すら、情報はなかった。
「お~い、コウタ〜そっちなんかあったー?」
「まだ着いてすらいねーよ!」
アイゾウはお手上げといった感じで、ネット通話をしているコウタに絡らんだが、速攻で突き返され逆に問い詰められた。
「つうか、お前……クラクから借りた、例の本ちゃんと読んでんのかよ?」
「あぁ…読んでるよ。気になることもある。」
「なんだよ」
「それは…」
「ちょっと!アイゾウ? さっきからずっと読んでんだけど?」
アイゾウが、重要なことを言おうとした所で、部屋からノックと女性の声が通話越しにもコウタの耳に響いた。
「おい…親フラか?」
「あぁ、少し待っててくれ、誤魔化してくる。」
アイゾウはそう言い残して席をたった。ドアを開けると、案の定彼の母親が怒った顔で腕組みをしていた。
「あぁごめん母さん。ちょっと取り込んでた。」
「なにしてたのよ。」
「あぁその ネットに面白い動画投稿者がいてねぇボイパがうまいやつなんだ。 ホラ ぶーつか ぶーつか やって…一時有名になったろ? 今も有名だし?」
「その人もう、ボイパで、売ってないわよ!」
ホントのことを言って、巻き込んだり、頭がおかしくなったと思われるわけにもいかなかったため、アイゾウは適当にごまかそうとしたが、見たことのない動画投稿者を使った事が、仇になってしまった。
「なんか、お母さんに隠してるわね!!言いなさい!!」
アイゾウは、冷や汗をだらだらにかき、冬なのに背中の服はびっしょりに濡れていた。問い詰められてからの、約1秒、言い訳と誤魔化しを構築する高速回転させたアイゾウの頭脳はIQ2000に達し、アインシュタインとゴキブリのそれをかるく凌駕し、離れ業な言い訳を放った。
「おっ オレ… 実はサイキン『バーチャルアイドル』に、ハマってるんだ! それで…所謂、推しの配信見てて、、ホラ…わかるだろ? 言いにくいんだ…これ以上の追求はよしてくれ…。」
「………。」
「……………。」
暫く沈黙が互いに続いたが、母親はそれ以上は追求しなかった。
「あとで、ゴミ溜まってるからら捨て場に行ってきてよ!!」
母親はそう吐き捨てて、廊下を後にした。
母親の姿が見えなくなって、ようやくアイゾウは吸ったまま詰まらせていた、息を吐くことが出来た。彼はすぐさま部屋に戻りコウタとの通話を再開した。
「お待たせぇ〜 なんとか誤魔化して来たよ〜。」
「聞こえてたよ。 確かに凄い誤魔化しだったが、代わりに何かお前、大切なものを失ったんじゃないか?」
「はぁ? なにが」
「………。」
「………。」
コウタの気遣いにアイゾウは疑問を感じた。噛み合わない価値観にお互い暫く気まずい沈黙が流れた。 だが、この二人の関係性には、こういうことは少なくない。二人は直ぐにいつもの、調子を取り戻し、本来の目的に対しての話に直ぐに修正した。
「アイゾウ…さっき例の本に気になるところがあるって言ってたろ?」
「あぁ…この小説、確かによくあるファンタジーってところだが、やたらこの物語、何故かリアリティーを感じるんだ。」
「コウタ…お前クラクから魔王の話を聞いたとき…本の中から飛び出してきたって言ったろ?」
「あぁそれが?」
「俺なりにこの本を読みながら考えたんだが…」
「本の中から、飛び出したんじゃなくて…実際にあったことなんじゃなか? これって。」
「フッ 魔王だの、ドラゴンだのの世界観が史実だって? そうだって言うならお前の頭もファンタジーだな。」
コウタは突拍子もないアイゾウの言葉を嘲った。 しかし、それに対しアイゾウは余りにも正論で返した。
「はぁ…コウタ…いい加減気づけよ…幽霊だの魔王だのが実際に蠢いてある時点で、俺達の現実も常識もすでにぶっ壊れている。」
「もう…ありえないことなんてこの世には存在しないんだよ。」
「あぁそうだな…済まない…ついたぞ…。」
コウタは音声通話にしていたスマホを、ビデオ通話に切り替えた。 六道ソウスケがかつて住んでいた。そのマンションの一室はテープで封鎖されていることもあって、明らかに不気味な妖気を漂わせていた。
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