第十話  仮面

         ●

「う〜ん それらしい、ものはないな〜。」


アイゾウはネットでモナリザのことを調べようとしていた、しかしどこのサイトを見てもそれらしい情報はなく、作者も、出版元、販売履歴すら、情報はなかった。


「お~い、コウタ〜そっちなんかあったー?」


「まだ着いてすらいねーよ!」


アイゾウはお手上げといった感じで、ネット通話をしているコウタに絡らんだが、速攻で突き返され逆に問い詰められた。


「つうか、お前……クラクから借りた、例の本ちゃんと読んでんのかよ?」


「あぁ…読んでるよ。気になることもある。」


「なんだよ」


「それは…」


「ちょっと!アイゾウ? さっきからずっと読んでんだけど?」


アイゾウが、重要なことを言おうとした所で、部屋からノックと女性の声が通話越しにもコウタの耳に響いた。


「おい…親フラか?」


「あぁ、少し待っててくれ、誤魔化してくる。」


アイゾウはそう言い残して席をたった。ドアを開けると、案の定彼の母親が怒った顔で腕組みをしていた。


「あぁごめん母さん。ちょっと取り込んでた。」


「なにしてたのよ。」


「あぁその ネットに面白い動画投稿者がいてねぇボイパがうまいやつなんだ。 ホラ ぶーつか ぶーつか やって…一時有名になったろ? 今も有名だし?」


「その人もう、ボイパで、売ってないわよ!」


ホントのことを言って、巻き込んだり、頭がおかしくなったと思われるわけにもいかなかったため、アイゾウは適当にごまかそうとしたが、見たことのない動画投稿者を使った事が、仇になってしまった。


「なんか、お母さんに隠してるわね!!言いなさい!!」


アイゾウは、冷や汗をだらだらにかき、冬なのに背中の服はびっしょりに濡れていた。問い詰められてからの、約1秒、言い訳と誤魔化しを構築する高速回転させたアイゾウの頭脳はIQ2000に達し、アインシュタインとゴキブリのそれをかるく凌駕し、離れ業な言い訳を放った。


「おっ オレ… 実はサイキン『バーチャルアイドル』に、ハマってるんだ! それで…所謂、推しの配信見てて、、ホラ…わかるだろ? 言いにくいんだ…これ以上の追求はよしてくれ…。」


「………。」


「……………。」


暫く沈黙が互いに続いたが、母親はそれ以上は追求しなかった。 


「あとで、ゴミ溜まってるからら捨て場に行ってきてよ!!」


母親はそう吐き捨てて、廊下を後にした。

母親の姿が見えなくなって、ようやくアイゾウは吸ったまま詰まらせていた、息を吐くことが出来た。彼はすぐさま部屋に戻りコウタとの通話を再開した。


「お待たせぇ〜 なんとか誤魔化して来たよ〜。」


「聞こえてたよ。 確かに凄い誤魔化しだったが、代わりに何かお前、大切なものを失ったんじゃないか?」


「はぁ? なにが」


「………。」


「………。」


コウタの気遣いにアイゾウは疑問を感じた。噛み合わない価値観にお互い暫く気まずい沈黙が流れた。 だが、この二人の関係性には、こういうことは少なくない。二人は直ぐにいつもの、調子を取り戻し、本来の目的に対しての話に直ぐに修正した。


「アイゾウ…さっき例の本に気になるところがあるって言ってたろ?」


「あぁ…この小説、確かによくあるファンタジーってところだが、やたらこの物語、何故かリアリティーを感じるんだ。」


「コウタ…お前クラクから魔王の話を聞いたとき…本の中から飛び出してきたって言ったろ?」


「あぁそれが?」


「俺なりにこの本を読みながら考えたんだが…」


「本の中から、飛び出したんじゃなくて…実際にあったことなんじゃなか? これって。」


「フッ 魔王だの、ドラゴンだのの世界観が史実だって? そうだって言うならお前の頭もファンタジーだな。」



コウタは突拍子もないアイゾウの言葉を嘲った。 しかし、それに対しアイゾウは余りにも正論で返した。


「はぁ…コウタ…いい加減気づけよ…幽霊だの魔王だのが実際に蠢いてある時点で、俺達の現実も常識もすでにぶっ壊れている。」


「もう…ありえないことなんてこの世には存在しないんだよ。」


「あぁそうだな…済まない…ついたぞ…。」


コウタは音声通話にしていたスマホを、ビデオ通話に切り替えた。 六道ソウスケがかつて住んでいた。そのマンションの一室はテープで封鎖されていることもあって、明らかに不気味な妖気を漂わせていた。

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