第15話これがオレの家族
✛
オレは家族が嫌いだった。
いや…正確に言えば嫌いなのは両親だけだ。
弟のシュウことはこの世の何よりも大切に思っていた。 オレは周りからは極稀に体の不自由な弟の世話をしている可哀想な奴という謎な同情を受けていたがそんな事を思ったことがないほどに弟のことが好きだった。
それでも家に帰るのがいつも億劫だった。 弟のシュウは、父親が眼の前で死んで以来、アイゾウと遊びに行く時以外は引きこもってしまったが、何故アイツらが居る、家に帰れるのかはマジで理解できなかった。
父親は言わずもがなオレは母親のことも嫌いだった。 元々俺達の面倒より父親にばかりの惚気、年のいった母親が学生のような恋愛心を持ったままでいるのは相当見ていて痛々しかったが、本当に嫌いになったのは親父が死んでからだ。
母はどこの誰から、そんなデタラメを吹き込まれたのか、オレに父親の遺産が託されたと信じんていた。
正確には遺産ではなく、遺産ノ隠し場所に通じる『鍵』らしいが、オレは当然そんなモノは知らなかった。
ある時を境に、母はそのことばかりをオレに問い詰めるようになった。 本当に知らないと言っても信じてもらえず、次第に殴られるようにもなった。
オレは幼少の頃から、親父の指示で柔道を習っていたため、ある日抵抗したら、それから母はオレを殴らなくなった。 だが、ついこないだ知ったことだが、今度は母は身体が生まれつき弱い弟を八つ当たりで何度も殴っていたらしい。 それで母親と大喧嘩してから、オレは出来るだけ家にいる時間を避けるようになった。
ラーメン屋から帰る道中。 オレは母とシュウから、着信が入っていたことに履歴を見て気がついた。
メッセージアプリを開くとシュウからのメッセージが届いていた。「母さんから話がある、早く帰ってきてと。」
家に帰るとまず洗面所に向かった、手を洗うために出した水の音と、それから鏡をなんとなく見つめ、これからおそらく起こる恒例の厄介事に腹をくくった。
家族会議と言う名目する失った意味もない俺への尋問だ。
そうしてリビングに向かうとそこには、いつもは家族で食事を行うテーブルには、シュウがいた。
弟はオレに顔の右側を隠すように顔を伏せたが、オレはハッキリとシュウの右頬に赤く腫れた跡を見たので、今日の母親の機嫌が最悪だということも理解した。
まだ母は現れない、オレは弟の席の左に座った。顔を背けるシュウにだけ聞こえるように質問した。
「何事だ…? いつものやつか…。」
するとシュウはうつむきながらも首を縦に小さく振り、小声でオレにあるお願いをした。
「兄貴……ついさっき…アイゾウから電話で聞いた…本のこと」
「………!!」
「落ち着いて…!僕も一緒だったんだ。」
動揺するオレの膝に手を置きシュウは落ち着かせると、オレに引き続き小声で言葉を続けた。
「お兄ちゃんには、言えなかったけど…アイゾウには、度々相談していた。 そう…15日から僕も見えてたんだよ…あの女!」
「なんで今まで言わなかったんだ…。」
「お互い様でしょ…それでね…。」
弟は重要なことをオレにお願いするためにこの日初めて、オレの顔を見て話した。
「お母さんには…絶対に喋らないで…。もしあんな奴が知ったら…どうなる? 勝手に死ぬならまだいい、もっと酷いこと…例えば六道ソウスケみたいに…いや…母さんはきっと高額な値段であの本を売りつける…。」
「あぁ……わかってる…オレ達のみたいなやつを増やし続けて、大惨事になる可能性は避けよう。」
「うん…僕たちだけで…この一件は解決するんだ…あっ…ほら来たよ…。」
弟に促されるように階段の方を見るとコツコツと不安定な足音を鳴らし、次第に母はその姿を表した。
母…
顔は血の気の引いた蒼白、手足はやせ細り、動向は不自然に力み開いており、その周りには白い顔とは反してくっきりと黒いクマが出来ていた。ソレは誰の目からも、『なんらかのクスリに溺れた』人間だとわかる姿だった。 それでも未だに逮捕歴がないのは、父親が、随分と界隈でその名を上げて出世してきた殉職した警察官だったからなのか。
不気味で不快極まりないその見た目だが、オレ達兄弟はもうその見た目に着いての違和感も何も無かった。 もう数ヶ月、見た目にくらいは、慣れが来たのだろう。
異世界王アルテルアと最強血統者の学園宮廷魔道士 倉村 観 @doragonnn
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