部外者
待合室の奥はトイレになっているようで、布留さんが車椅子に乗って出てきた。
「聞こえたわよ。正解したんですってね。おめでとう」そう言って笑みを見せる。
「ありがとうございます」と僕は
布留さんはその言葉を視線で返し、テーブルに置いてあった読みかけの本を手にとった。
「今から読書ですか?」ヒナが思わず尋ねた。
「ええ、私は推理小説が好きでね、続きが気になっちゃって」
「え、でも今ですか?急がないと時間切れになったりしちゃうんじゃないですか?」ヒナはそう言って布留さんを気にかける。
「私はね、じっくり考えるタイプじゃないの。こうやって本でも読んでいると突然降ってくるのよ。せかせかするのは嫌いなの」僕に視線を移し布留さんは続ける。
「
「あっくん、これからどうする?」
「とりあえず西館の方も覗いてみようと思う」
「賛成!私もついてく!」
西館に差し掛かったところで一人の男性とすれ違った。
「あんな人いたんだ。こんな事言っちゃいけないけど、何だか全然存在感ないよね。年齢不詳だし、ザ•普通って感じ。私、街でばったり出会っても絶対気づかない自信あるわ」
「しっ、ヒナ。聞こえるよ」
西館も東館と基本的な造りは同じようだ。1階は11号室から始まる。その部屋の前には、大樹さんが熱心に扉を調べていた。
「偉そうな事言ってたのに、まだそんな事してるんだー」
大樹さんに聞きたいことがあったのに、ヒナが余計な事を言うもんだから聞きにくくなってしまった。
「大樹さんは、このイベントについて知っているみたいですけど、関係者ですか?」
大樹さんはこちらを見ることなく、鬱陶しそうにシッシとジェスチャーした。
「あっくん、ほっとこ。どうせこのまま失格になるのがオチだから」
何でこうもいらない事を言うのだろうと思いながら僕は言う。
「平方根ですよ」
大樹さんはポケットからクジを取り出して裏表を確認した。
「何でバラしちゃうかなー、もう」
「僕らも東さんのおかげで通過できたんだ。僕らの手柄じゃない」
「東の手を借りたのか!?くそ、余計なことしやがって」
「大樹さんはあの二人とは知り合いなんですか?」
大樹は無言で待合室へと歩き出した。西館を出る際に立ち止まりポツリと漏らした。
「部外者なんだよ。お前らは」
「部外者?」ヒナと僕は声を揃えて言う。
大樹さんはそれ以上何も言わずに去って行った。
館に入った参加者は12名。おそらく西館の2階は使用されないのだろう。それでも見学がてら2階へと上がり、中央ホールへと抜ける。
「ピンポンパンポーン」
「11号室 小林 大樹様が正解しました」
ヒナが何かいいたげにこちらを見たが、気づかないフリをした。
僕たちは正面階段を降りて、待合室の前に来た。
「出ていきなさい!」
梢さんの声だ。そう思った瞬間、勢いよく出てきた男が僕にぶつかってきた。
「どこ見てやがる、気をつけろ!」
禁煙と聞いて苛立ちを見せた男だった。
「ちょっと何あれ、自分からぶつかっておいて。あっくん大丈夫?」
「何ともないよ」そう言って部屋に入った。
部屋の中には布留さん、東さん、梢さんがいた。大樹さんはいない。トイレにでも行っているのだろう。
「何があったんですか?」
「さっきの人なんだけどタバコが吸えずにイライラしててね、それを見て梢がキレたんだ」東さんはおかしそうに言う。
「しょうがないでしょ」と梢。
「明壁様、松島様、よろしければ昼食をビュッフェ形式でご用意しておりますので、ご利用下さい」と中山さんに案内された。
「ちょっと中山さん、ダージリンをいれてくれる?」
僕らを案内しようとしていた中山さんの動きが一瞬止まった。
「私が淹れましょう」八木が言った。
「いいわ自分でやる」そう言って梢は席を立った。
「キツい性格してるだろ?」東さんが僕に聞く。
「余計なこと言わないで」
「無事に正解できたようで何よりだ」東さんは笑みを見せた。
「東さんのおかげです」
「何のことかな?」そう言って東さんは、はぐらかした。
「そんなことより、君は猫をどう思う?もう3人が脱落したけど、案外その中にいたりしてね」
「僕はそうは思いません」
「ほう、何故だい?」
「まだ条件不足の仮説なんではっきりとは言えません」
「お腹空いたー」ター坊が待合室に入ってきた。中山さんに案内されて昼食を美味しそうに食べている。
「構わないよ。聞かせてくれないかな?条件不足の仮説というものを」
どうしたものかと思いつつ、僕は口を開いた。
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