突破口
「痛いよー、離してよ」ター坊が2号室の男に肩を
「ちょっとあんたたち何やってるの!」ヒナが割って入る。
「別に何もしてねぇよ。ちょっと教えてくれって言っただけなのに大袈裟に
「何よそれ。さっきはター坊のこと邪魔者扱いしてたくせにずいぶん都合がいいのね」
「僕、教えてあげてもいいよ」
「ちょっとター坊、こんな奴に教えることなんてないよ」
「うるせえ関係ないだろ。坊主教えろ」
「うん、おじさんのは0998だよ」
「おい、こいつの言うことマジで信じていいのか?」3号室の男が言う。
その時、館内放送を知らせるチャイムが鳴った。
「ピンポンパンポーン」
「6号室 佐伯 梢様、7号室 如月 東様が正解しました」
「聞いただろ、もう3人正解してる。もし足切りがあったらヤベェ。モタモタしてられねぇ。俺は行くぜ」そう言って男たちは待合室へと向かった。
「ター坊の暗証番号は何だったんだ?」僕はそう尋ねた。
「僕はねー、0999。ほら、そこに部屋番号の1を足したら1000になるでしょ?」
「あっくんどう思う?」
「どうもこうも、それじゃあヒントの意味がないし、あまりに考え方が飛躍しすぎている」
とりあえず待合室に戻ろうとしたところで、またしてもあのチャイムが鳴った。
「ピンポンパンポーン」
「2号室 田中 秀一様 不正解のため失格です」
待合室の扉を開けると
「くそ、あのガキふざけやがって」
「俺のミスじゃない。俺はあのガキに騙されただけなんだ。もう一度チャンスをくれよ」そう八木に嘆願している。
「残念ですが、そういうわけにはまいりません」八木は冷静な口調で答えた。
3号室の男が声を上げる。
「わかった、あのガキ岡本 武尊が猫だ。あいつは他の参加者を
「中山!」八木が中山に指示する。
中山さんは壁にかかっている受話器を取り、告げる。どうやらそれで館内放送がかかるようだ。お馴染みとなったチャイムとともに中山の声が館内に響く。
「3号室 加藤 拓也様 猫特定に失敗の為、失格といたします」
八木は中山に手を伸ばし受話器を受け取って言った。
「
二人の男はスタッフに連れられ待合室を出て行った。
「手詰まりになっちゃったね、あっくん」
「東さんは部屋の前まで来たが、扉には何もないと言って引き返していった。その時に答えが分かっていたということは、もう解くための条件は揃っているということか」
「何をぶつぶつ言ってるの?」
「ごめん、ちょっと考えさせて」
•クジは直角二等辺三角形、つまり広げると正方形
•部屋番号は表に書かれていた、なぜ中に書かないのだろう?
•暗証番号は4桁、カッコの数も同じ。カッコには暗証番号が入る?
•もしかして英文自体も数字を表している?
•僕たちの英文は、ピリオドではなく三点リーダーで終わり文中にはピリオドがある
•ピリオドが小数点だとするなら、3点リーダーは無限小数を表している?
そうか、暗証番号はわかった。東さんのあのセリフの意味するところも。だけど、まだ断定するには理由が弱い。
•ター坊が正解したのはたまたまだったかもしれないが、ター坊は部屋番号を取り入れた考え方をしていた
はっとして、僕はクジを取り出して確認した。
「そういうことだったのか」
「わかったの?どういうこと?」
「うん、まず英文自体には意味がない。各単語の文字数はそのまま数字を意味していた。あの英文は、部屋番号の平方根を表していたんだ」
「平方根って中学の時に習ったあれ?」
「そう、平方はもともと自乗という意味、クジが正方形なのもヒントになっていたんだ。部屋番号が面積だとすると、あの英文は一辺の長さを意味しているということだよ」
「えっとつまりどういうことだっけ?」
「僕の部屋番号は5。つまり√5なんだ。ヒナも知ってるはずだ。富(2)士(2)山(3)麓(6)オウ(0)ム(6)鳴(7)く(9)
“No. It was Norman (0) (6) (7) (9)...”
「僕の暗証番号は『0679』だ。部屋番号が表に書かれていたのは英文が平方根を表している事を気づかれにくくする為だったんだと思う」
「ということは私は√8って事?」
「そう、東さんはあの時『ああ、僕は番号を持ってる』って言ってた。それを英語にすると、”Yes. I have a number. “ これは、3.14159...、円周率を切り上げた語呂合わせみたいな覚え方なんだ」
「でも私√8の語呂合わせ知らないんだけど」
「√8は2√2だよ。1.41421356 一夜一夜に人見頃の2倍。繰り上がりがあるかもしれないからスマホかここにある端末で調べたらいいだけだよ」
「そっか、えーと2.82842712だから、…」
“Dr. Shepherd is (8) that (2) culprit (1) (2)...”
「8212ね!」
「正解。4号室と9号室がなかったのは、忌み数字を避けたんじゃなくて平方数、つまり整数の自乗を避けていたんだ」
「なるほどね。でもちょっと待って、そうなるとター坊はどうなるの?私数学は苦手だけど、√1って1よね。ター坊の答えだと、0.999...ってことにならない?」
「無限小数0.999...は1と同じだよ」
「うそ、1よりちょっと小さいでしょ?」
「同じだよ。例えば1÷3=0.333...だけど、両辺に3をかけると1=0.999...になるでしょ」
「あれ?ホントだ」
定義不十分な子供騙しの証明だったけど、ヒナに無限等比級数の和と言っても混乱するだけだと思ったのであえてそう説明した。
「さてと」僕は端末を操作した。
「カードが有効化されました」端末から音声が流れた。ヒナもそれに続く。
館内放送のチャイムが流れ中山のアナウンスが館内に響いた。
「5号室、明壁 信様、8号室、松島 緋奈子様が正解しました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます