東館

 双葉館は二階建てで玄関の正面に階段がある。左が西館、右が東館になっており、両館とも各フロア4部屋づつ客室を備えている。とりあえず僕たちは1番近いター坊の1号室に向かった。1と書いてある東館1階の部屋の前で僕らは足を止める。2号室はさっきター坊を突き飛ばした若い男が立っていた。僕らを睨むような一瞥をくれたが、すぐさま自分の部屋の扉に視線を移した。

「くそ、何も手がかりがねぇ。なぁあんた俺と組まねぇか?」2号室の男は3号室の前にいる男に声をかけた。

 僕ら一同も扉を調べる。館自体は歴史があるが随所にリフォームが施されており、ドアはホテルでよく見るカードキーをタッチすることで開錠するタイプになっていた。試しにター坊がIDカードをタッチしていたが、無効を表す赤いランプが点灯するだけでやはりロックは解除されない。ドアの隙間に何か挟まっていないか確かめたが何も挟まっている様子はない。考えてみれば当然のことで、もしそのようなことがあれば他の参加者が持ち去って妨害するかもしれないし、足の不自由な布留さんには大きなハンデとなってしまう。

「あっくん、何もないよ」

「そうみたいだね、僕の部屋はこの先にあるから一応ついでに見てみよう」

「あれー?何で4号室はないの?」3号室を通り過ぎたところでター坊が声を上げた。

「そうか、ター坊は知らないかな?4は死を意味する縁起の悪い数字だから部屋番号では使われない事があるんだ。9も苦労を連想させるからそれも同じだね」

 僕の部屋である5号室の前に来たが、想像通り特別な発見はない。

「手がかりなし、一旦待合室に戻ろうか」

 僕がそう提案した時、ヒナが不満げに声を上げた。

「私の部屋も調べようよ。私のとこだけスルーするなんて不公平じゃない?」

「わかったよ」

 僕の部屋は東館1階の奥で、その隣に2階へと続く階段がある。ヒナの部屋は東館の2階なので、その階段を登ることになる。登り切って最初の部屋が10号室、やはり9号室は無く、その隣はヒナの8号室だった。

「収穫なしね」ヒナが残念そうに呟く。

「もしかして、あの英文だけで解けるということなのかな。困ったな僕は英語苦手なんだよね」

「それは感心しないな」反対側から来た男性に声をかけられた。

 待合室で梢さんの隣にいた男性だった。モデルのような端正な顔立ちをしており年は20代半ばといったところだろうか。梢さんも一緒にいる。二人並ぶと美男美女のお似合いカップルといった感じだ。

「君はさっき待合室で言っていただろう、『気になって調べた』と。そう言う気持ちが大事なんだ。知らないまま終わらせるか、そこに探究心を持つかで、人はその後大きくも小さくもなるものだよ」

「その通りだと思います」と僕は答えた。

「ところで、一緒にいた男の子はどうしたんだい?」

 そう言われて初めて気づいた。ター坊がいない。

「さっきまでいたのに、どこ行っちゃたのかしら?もしかして外に出ちゃったんじゃ…」

「それは心配ないと思うよ外に出れば失格になるからスタッフが監視しているだろう」男性がそう言ったところで、館内放送が流れた。

「ピンポンパンポーン」

「1号室 岡村 武尊様が正解されました」

「うそ!」ヒナが声を上げた。

「ちょっと!あずまがのんびりしてるから先を越されちゃったじゃないの!」梢が声をあららげる。

「問題ないよ。別に早く突破することに意味はないだろう。でも思った通り部屋の扉には何もない。いたずらに時間を潰すのも無意味だし、僕たちも行くとするか。それじゃ、お邪魔したね」そう言って二人はきびすを返した。

「あの、東さんは答えがわかったんですか?」ヒナが尋ねる。

 東は振り返り、笑みを浮かべて答えた。

「ああ、僕は番号を持っている」

「ちょっと東!」

「いいだろ別に」

 こちらに向かってくる10号室の女性と入れ違いに二人は戻って行った。

「カッコいい」ため息混じりにヒナが言う。それを聞いて何だか心がざわついた。

「本当にお似合いカップルだと思わない?W不倫だけど」

「W不倫?」

「うん、二人とも結婚指輪してたけど苗字違うもん。如月きさらぎ 東さんに、佐伯 梢さん。それにね、んーとやっぱりいいや」

「東って下の名前だったんだ。てっきり苗字とばかり思ってたよ」

「変わってるよね。ねぇター坊の所へ行ってみない?それで答えがわかるんじゃないかしら?」

「そうだね」

 僕たちは1号室に戻った。

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