クジ引き
「これより部屋決めを行います。まず皆様にはこの箱の中にあるクジを引いていただきます。そこに部屋番号が書かれています。ルームキーは皆様各自のIDカードなのですが、当然そのままではご使用できません。こちらにあります端末で部屋番号を入力後、四桁の暗証番号を入力して紐付けする必要があります。暗証番号に関するヒントはクジに書かれております。入力は一度限りですので、くれぐれも間違いのないようご注意下さい。また、この端末は通常のパソコンとしてご使用いただけますのでご自由にお使い下さい。尚、
「安楽椅子探偵みたいだ」
そう呟く僕にヒナが尋ねる
「安楽椅子探偵って?」
「現場に行くことなく、与えられた情報だけで解決する探偵のことだよ」
「私は安楽椅子ではなくて車椅子探偵ね」
布留さんがそう微笑んだ。
「すいません」
反射的に謝ってしまった。
「いいのよ。それじゃ私から引かせてもらおうかしら」
それは中山が箱を持って三瀦の横に立ち、その手が箱に入れられた瞬間の出来事だった。
「僕が最初に引きたーい!」
小学生の男の子が勢いよく駆け寄り、三瀦の手を跳ね除けた。
緊張が走った。三瀦も一瞬驚いたそぶりを見せたが、すぐにやわらかな表情をつくり優しく語りかけた。
「じゃあ坊や先に引きなさい」
「やったー、僕のは1って書いてあるー!」そう言って部屋の中を走り回る。
「まだクジの中は見ないようにお願いします」中山が慌てて言った。
その後、他の参加者も順次クジを引いていった。
「あっくんは何番?私は8番」
「僕は5番」
クジは端をぴったり合わせた直角二等辺三角形で、表にその数字が書かれている。普通は中に書くものじゃないだろうか?
「全員行き渡りましたね。そのクジに書かれている番号が部屋番号です。クジの中には暗証番号に関するヒントが隠されております。それでは中を確認して下さい」
“No. It was Norman ( ) ( ) ( ) ( )...”
僕のクジの中にはそのように書かれていた。
それを覗き見したヒナが「私のはこれ」と言って自分のクジを見せてくれた。
“Dr. Shepherd is ( ) that ( ) culprit ( ) ( )...”
こちらも英語で書かれている。空欄に入る語句を推測して、そこから暗証番号が導かれると言うことだろうか?
「これだけじゃ何もわからなくない?あっくん何か分かる?」
「もしかしたら、ユリック ノーマン オーウェンのことかも」
「誰それ?」
「アガサ クリスティの小説『そして誰もいなくなった』の登場人物だよ。確か事の発端となる招待状の差出人だったような気がする」
「ふーん、私のはどう?」
「同著者で『アクロイド殺し』の登場人物に、ジェームズ シェパードという医者が出てくる。出題者は推理マニアなのかもね。いずれにしても条件不足だ」
「僕、全然分かんなーい、ねぇねぇおじさんのも見せてー、僕と一緒に考えてよー」
1番を引いた小学生の男の子が、自分の隣に座っている男のクジを覗き込んだ。
「何すんだ、このクソガキ!あっちいってろ!」
まだ20代と
「うわーん」
「ちょっと子供相手に何するのよ!」
ヒナが男の子に駆け寄った。
「あ?こんなクソガキにわかるわけねーだろ。俺は子守り役なんてごめんだね」
男は吐き捨てるようにそう言った。
「そんなことないわ、ねぇ僕、お姉ちゃん達と一緒にやろうか?」
「本当?うんやるやる。僕ね
さっきまで泣いていた男の子は目を輝かせた。
「お姉ちゃん達?ひょっとしてだけど、それって僕も入ってるの?」
「当たり前じゃん!さぁ3人でがんばろ〜!」
すっかりヒナのペースに乗せられてしまった。
「じゃあ僕のも見せてあげる」そう言ってター坊はクジを差し出した。
“( ). Arbuthnot ( ) ( ) estimated ( )...”
「これもアガサ クリスティっぽいね。アーバスノット大佐かな、『オリエント急行殺人事件』の登場人物だ」
「とりあえず部屋に行ってみよう。何か手がかりがあるかもしれない」
僕たちは待合室を出た。
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