小林建設

「11時半に申し込んでいる明壁です」

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 係の女性に奥の部屋へと案内される。

「明壁様がお見えです」女性はドアをノックしてそう言った。

「どうぞ」と年配らしき男性の声が中から聞こえた。

「失礼します」

「ああ、そんな固くならなくていいよ。私は佐藤と言います。まぁ座って楽にしてよ」

「はい」

 歳の頃は60近くと言ったところだろうか、地位のある人みたいだけど、人当たりの良さそうな雰囲気を持っていた。

「ちょっと簡単に説明するね。まず、君にはこれからいくつかの問題を解いてもらう。我々は100人の被験者の中から一番優れた被験者を選びたい。君も知っていると思うが、その最優秀者が本戦出場というわけだ。もう一度確認するが、もし代表に選ばれた場合本戦出場の意思はあるかい?あと君は高校生だからご両親の承諾も必要なんだが」

「はい大丈夫です」

「よしでは早速第一問だ」


「両面が黒いカード1枚と、片面が黒、もう片方が白のカードが1枚ある。その中から1枚取り出しテーブルに置く。今そのカードの上面が黒の時、その裏が黒の確率はいくつか?」

「2/3です」

「正解、ちょっと簡単だったようだね。一応説明してもらえるかな?」

「はい、両面黒いカードの片面を①、もう一面を②、もう1枚のカードの黒い面を③とします。するとテーブルに置かれたカードの上面は①②③のいずれかです。そして③の時以外は黒ですから2/3です」

「その通り。では次の問題にいってもいいかな?」

「はい」

「4枚のカードが並べられている。それぞれ、A, K, 4, 7だ。”母音のカードの裏には偶数が書かれている” このルールが正しいかを確認するには最低何枚めくる必要があるか?またそのカードはどれか」

「ウェイソン選択課題ですね。さっきの問題も僕が知っている問題だったんですが、これは問題ないんでしょうか?何かフェアじゃないような気がして」

「君は正直だね。だがその点は問題ないから気にしないでいいよ。確かに我々は柔軟な発想力を求めているが、それも知識あっての物種ものだねだ。では、答えを教えてくれるかな」

「はい、めくるカードはAと7の2枚です。まずAの裏に奇数が書いてあれば破綻します。7の裏が母音の場合も同様です。重要なのは子音の裏は偶数でも奇数でもよいのです。なのでKと4は確認する必要がないのです」

「その通り。では次の問題はどうかな?」佐藤さんは意味深な笑みをみせた。

「想像してくれ、今君は階段を登り、目の前の扉を開けて部屋に入ったとする」

「はい」

「その部屋には扉が3つあってそれぞれA, B, Cとする。そのうちの1つは当たりを意味する車が隠されている。残りの2つの扉にはハズレで何も入っていない。君は扉を1つ選ぶ。次に当たりの扉を知っているスタッフが選ばれなかった扉のうちハズレの扉を1つ開いてみせる。ここで君は残った扉に変更することができる。当たりの確率を最大にする為に君はどのような作戦を立てる?」

 一見ただのモンティ・ホール問題のように聞こえる。もしそうなら、どれでもいいから扉を選び、その後変更することで当たりを引く確率は2/3になる。だけど、気になるのは冒頭の設定…、なるほどそう言うことか。

「部屋に扉が3つなので、そのうちの1つは自分の入ってきた扉。それを選び、その後変更すれば100%当たります」

「お見事。モンティ・ホール問題を知っている人は結構ひっかかったんだがよく見破ったね。それでは次にいこう」


 その後もそんな調子で問題が出されては回答することを繰り返した。


「では、次が最後の問題だ。賞金つきだから頑張ってくれよ」

「はい」

「ここに3枚の封筒がある。全ての封筒に現金が入っているが、それぞれ異なる金額だ。私もいくらなのかは知らない。まず君は封筒を1つ選び中身を確認する。それを受け取って終了しても良いが、それを辞退して別の封筒に変更することができる。一度辞退したものを後から選び直すことはできない。変更した場合、中身を確認し、それを受け取るか、辞退して残りの封筒を選ぶかを選択できる。さて、君には最も高い金額を狙ってほしい。まずはどれを選ぶ?」

「では左で」

「即決だね。みんな結構悩むんだが」

「どれでも同じことですから」

「では中身を見てくれ。いくらだい?」

「5000円です」

「さて、どうする?」

「隣の封筒にします」そう言って僕は中身を確認した。

「1000円でした」

「下がってしまったね」

「想定内です。最後の封筒を選びます」

「さて、中身を確認する前に君の作戦を聞かせて貰えるかな?」

「はい、最初の封筒は必ず変更します。2番目の封筒がそれより高ければそれを、そうでなければ最後の封筒とします」

「なるほど、では中身を確認してくれ」

 僕はおもむろに中身をあらためた。

「いくらだい?」

「100円です」

「最低金額だね」


「想定の範囲内です」


「では作戦の理由を聞かせて貰おうか」

「最初に大を選ぶ確率は1/3です。ここで変更する場合、最後の封筒になるわけですが、それは半々の確率で中か小ですからこの段階での確率は、中小それぞれ1/6です。次に、最初が中の場合。これも1/3ですが、この場合必ず大を選べますので分母を揃えて比較すると、大2/6、中小それぞれ1/6。最初が小も当然1/3。これは次の封筒に決定しますが、大中いずれかが半々の確率ですので、合計すると大3/6、中2/6、小1/6となります」

「君の言う通りだ。おめでとう、君を最優秀者とさせてもらうよ」

「どう言うことですか?僕は元々13時半に申し込んでいました。つまり僕以外の被験者がこの後に控えているはずです。100人の中から最優秀者を選ぶならこの段階ではまだ決められないのではないのですか?」

 そこまで言ったところで僕は一つの可能性に気がついた。


「先程の問題は秘書問題の簡易版でした。もしかして、この選考方法も秘書問題ということですか?」

「御名答」

 佐藤さんは笑みを浮かべてそう答えた。

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