プロローグ

あきら君ちょっといいかい?」

「はい店長、何ですか?」

「急な話で申し訳ないんだが、今日限りで店を閉めようと思ってね」

「え?店を閉めるのは月末って言ってましたよね?どうしてですか?」

「私ももう年なんだな、時々手が震えてまともに料理することもおぼつかない。それで今日病院に行ってきたら、休養を勧められたよ。まぁ潮時ってことだ。これ今月分の給料満額で入れといたからね」

「満額って、今月まだ一週間以上残ってますよ」

「いいんだよ、受け取ってくれ。次のバイトを探さなきゃいけないだろう?君は本当に頑張ってくれた。今までありがとう」

「そんな、こちらこそお世話になりました。ありがとうございます」


 次のバイトを見つける前にバイト難民になってしまった。早いとこ次のバイトを探さないとと思いベッドに寝転びスマホをいじる。

 今まで勤めていたのは近所にある馴染みの中華料理屋だったわけだけど、チェーン店の飲食店とかは何だか色々厳しそうで気遅れしてしまう。かと言って工場や引越し作業のような力仕事は体力的な不安がある。なかなか難しい。

 とりあえず、つなぎで単発バイトをいくつか調べてみたら、気になる求人を見つけた。


“モニター募集 いくつかの問題を解いていただく簡単な内容です。

※状況により簡単なパソコン入力作業になることもあります

所要時間30分〜3時間 報酬3000円

募集要項 最優秀者には8月11日〜12日に開催される本戦にご参加いただきますので、こちらの日程にご参加できる方。

本戦は食事、宿泊用の部屋をご用意しております。

報酬 3万円 尚、本戦優勝者には

賞金100万円を進呈します”


 ずいぶん時間に幅がある。30分で3000円なら割はいい、3時間だとしても時給1000円。そして何より内容に興味がかれる。ちょっと怪しい感じもするけど、主催は小林建設という地元では割と知られた会社だから心配はなさそうだ。それでも一応ネットでその会社を調べてみることにした。

 口コミ的なものの評価は★3 よくあるそれと同じで、良い意見もあれば悪い意見もあり、特にこれといった役立つ情報は無いようだ。

 ホームページも特別おかしなところはない。名前程度しか知らない会社だったので、会社概要をクリックした。


1931年 王 宥延により、王工務店として創業

1938年 小林工務店に名称をあらため小林 タネが社長に就任

1950年 小林 双葉に社長交代し双葉工業に社名を変更

1994年 小林 双葉は会長に就任、小林 なつめが社長となり小林建設に社名を変更

2025年 フォレストエステート(仮称)に社名変更予定


 割と歴史がある会社のようだ。これだけで完全に信用したわけではないけども、好奇心が勝り翌日電話をかけた。


「はいお電話ありがとうございます。モニターの申し込みですね、こちらのこり13時半の部のみとなっておりますが、いかがいたしましょう?」

「じゃあそれでお願いします」

「わかりました。では13時半で承ります」


 それにしても、一体このモニターの目的は何だろう?建設会社が問題を一般人に出題して何になるのだろうか?

 「条件不足か」これ以上考えても答えは出ないだろうし、分かったところで僕からしたらただの単発バイトに過ぎない。考えるだけ無駄だろう。

 その時、スマホが鳴った。さっき僕がかけた番号からだった。

明壁あすかべ様のケータイでよろしかったでしょうか?先程お話しさせて頂きました、小林建設の加藤と申します」

「はいそうです」

「実はご相談なんですが、明日の時間を11時半に変更していただくことは可能でしょうか?」

「何かあったんですか?」

「いえ、もともとその時間に申し込まれていた方が都合が悪くなったという事で、時間変更をご希望されております。もし明壁様のご都合に支障がなければ交代していただけないかと思った次第です」

「大丈夫ですよ。僕も午前中の方がありがたいので」

「ありがとうございます。それでは明日11時半にお待ちしております」

 願ってもない提案だった。これで昼からの時間が自由に使える。

「さてと、次は長期バイトを探さないと」

僕は再びスマホを手繰たぐった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る