女子トイレ

「ねぇ絵美、例の選考会の代表決まったっていう話聞いた?」

「え、もう?誰?」

「明壁 信君。ほら、午後の部から午前の部に替わってくれた子」

「あ、さっき来てた子ね。でも100人の中から選ぶんじゃなかったっけ?まだ半分も終わってないでしょ?」

「ちょうど今日で半分。佐藤さん喜んでたよ。追加募集しなくて良かったって」

「どう言うこと?」

「私も詳しくないんだけど秘書問題っていうらしいよ」

「秘書問題?」

「うん、お見合い問題ともいうんだけどね、大勢の中から最も優れた人を最小手数で選ぶ方法なの」

「何それどうやるの?」

「まずは、全員の数を自然対数eで割って…」

「待って待って、日本語で言って」

「日本語だけど。端折はしょって言うと100人なら、それを2.718で割って37くらい。これは最初の37人を無条件で断りなさいってこと」

「無条件ってひどくない?」

「でも単に断るんじゃなくて、その中で一番優れた人を基準にするの。あとはその人より優れた人がくるまで断り続けることでその確率を最大にできるの」

「でもそれって断った中に一番いい人いたらダメじゃん」

「そう。だから絶対ではないの。でもそれが最善手なのよ」

「でもさでもさ、午後の部の人たちはどうするの?」

「求人に書いてあったでしょ。パソコンの入力作業よ。モニターは会社の利益につながらないから、合格者が出た今ずるずる続けるよりそっちをやってもらった方がいいってことじゃない?」

「ずいぶんドライね」

「でもいいんじゃない?私たちも通常業務に戻れるし」

「それもそうかもね」

 そう言って女性スタッフたちはトイレを出て行った。

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